心を殺す方法
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心を殺す方法

カシオ

異常性をもつ人間に関わる有効な対処法

ネタバレ
2022年9月6日
このレビューはネタバレを含みます▼ 義弟×義兄の話です。ハッピーエンド好きとしてはラストの展開に対するもやつきはもちろんありますが、物語として完璧であると思いました。どれだけ望みあるラストを願ったとしても、これは何かしらの異常性を有する人たちの物語です。すっきり終わる、そんなわけないのです。英先輩も分かっている通り、狂ってる心をもつ人間に関わるならば、自分も深い傷を負う覚悟で挑まなければならない。もし今後も春樹さんと繋がりを望むならば、ここからが正念場でしょう。
人を殺してしまった罪悪感は拭おうとしても拭えるものではないので、光さんや春樹さんの悔いや自分に対する憎悪はまだ付いて回るはずです。そんな彼らが、暫く経ち一度相対したところで綺麗に終わるはずがなく、むしろ対面したせいでまた引き摺られます。
また、英先輩を思うならば春樹とは離れた方がいいと思うけれど、英先輩の意志が好きな身としては、兄弟の鎖に引き摺られることなく、性被害を受け心に傷を負った春樹の傍にいてほしいと思います。
お母様に関してはもう全く被害者です。春樹を一時傷付けたのも善意であり死に至る罪ではありません。しかし現実世界でも創作でも、正しくて清い人間が死なないということはあり得ない。公正世界仮説ではありませんが、彼女の死に関しては、自分が身重であるのに春樹や息子を救えると過信しすぎましたね。
ではこの物語に自分が助かる正しい方法はなかったのかというとそれも違います。明確に有効な対処法を施した人物はいて、それが春樹さんのお父様です。狂ってる人間に自分も巣食われないようにするには、相手が子供であろうと愛した女の息子であろうと、関係を断ち切るしかない。
臨床医師やカウンセラーを味方につけたところで『正』に転じることはありません。物語が簡易なハッピーエンドに終わらず、暗澹とした混沌の落ちに着いたのがとても素晴らしいと思いました。漫画という観点からすると、そのような世界観にも関わらず読者の心を闇一辺倒に落とさない作風も素敵です。
何はともあれ、この作品は単に面白いのです。
重要なのは今普通である人間(我々の一部)がいつあちら側に転じるか分からないということ。とても素晴らしい作品を解像度の高い漫画で見せてくださりありがとうございました。
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