竜は無垢な歌声に恋をする
」のレビュー

竜は無垢な歌声に恋をする

名倉和希/黒田屑

深く複雑なテーマが織り込まれている良作

ネタバレ
2022年9月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ シリーズ3作め。『竜は将軍に愛でられる』番外編を入れたら4作めです。今回はレヴィの生い立ちが可哀想で気の毒で、それなのに誰を憎むでも恨むでもなく健気に生きる純粋無垢な性根の真っ直ぐさに泣けて仕方ありませんでした。一方でシリルの生い立ちや環境も特殊で気苦労が多く、ある意味肩身が狭いものがあるのかな…と思いました。とは言え、見た目の美しさと血統、何もかも持っていて全てが一級品というようなシリルが見初めたのが(キャシー以外)誰からも顧みられないレヴィで…心眼をもって相手を見抜く力があるんだなとグッと来ました。3作目にして気付きましたが、これは単なるラブストーリーではないのですね。異種族間の交わり・(寿命の差による)死生観など、深く複雑なテーマが見え隠れしています。アゼルとシリルのように相手の寿命を延ばす事ができるが、長寿であるが故の悲しみ(周りの人の寿命は短いので何度も家族や友の死に直面する)があり、アランのようにいつか必ず来る愛する者の死を受け入れる覚悟を持って、それまでの愛ある生活の喜びを求めて生きる…それぞれのカップルの切なくも美しい愛の形が見られる感慨深い作品でした。巻を重ねるごとに円熟みが増していく良作だと思います。
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