あまのぼる夏
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あまのぼる夏

rasu

BLを超えた人間ドラマ

ネタバレ
2022年9月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ 季節はどれも等しく過ぎていくのに、夏が過ぎようとする頃、殊の外それを淋しく思うのは何故だろう?夏の陽射し、夏の景色の煌めきは、命を、人生を、思い起こさせるからか?……本作の舞台を夏に置いたのは『お盆だから』というだけでなく、作家先生も同じように感じていらっしゃるのではないかと拝察する。

ここに二人の男性がいる。一人は、忘れ得ぬ人を想いながらこれからを生きる決意をした者。もう一人は、相手を愛するが故に相手の人生を考え、過去にとある選択をした者だ。時を経て『この夏』思いがけず再会した二人が互いを求め合う姿に、私は涙を堪えきれなかった。

『三森さん』『辻英司』『えっちな妄想』のエロく可愛らしく瑞々しい人物描写ですっかりファンになってしまったrasu先生。先生の真面目で情愛深いお人柄が伝わる本作を、私は今夏何度も読み返した。故郷の風景、実家に残る子供部屋。先生の描くこうした背景すらも心に沁みてくる。

生まれ落ちてから全ての人に平等に有るのは死だけだと私は思う。それすら平等に迎えることは出来ない。逆らえぬ運命に一刻の猶予もない二人。境遇は違えどもそれは私たち誰しもが皆同じなのだと、読みながら感じた。梶井基次郎の短編の引用により、作品に深みを増した本作を、BLの括りを超えた人間ドラマとして、多くの方に味わっていただきたい。

夏の俄雨の降り出した最後のシーンは、重苦しいはずの二人のこれからに、柔らかく明るい余韻がある。それは私が読後に抱いた願望でもある。

短編でありながら、自分の身に置き換え、様々な事を考えさせられる。rasu先生ならではの愛すべき作品だ。
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