パブリックスクール
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パブリックスクール

樋口美沙緒

過去に飲み込まれる者と未来へ漕ぎ出す者と

2022年11月25日
腐の世界に落ちてから暫くは漫画を読み漁っていましたが、大方の有名どころを読んでしまうと短編では物足りなくなり、かと言ってまだ見ぬ名作に出会える確率も低くなる…そんな時に小説へ手を伸ばすきっかけになった最初の作品です。個人的にイギリスは、閉鎖的なイメージがあります。未だに王政が残っている国ですから、昔ながらの貴族のような一般人とは違う高貴さだとか差別だとかも当たり前にある印象です。そんな下地がある所への『パブリックスクール』…厳しい伝統・規律がある世界でどんな話が展開されるのかドキドキでしたが、予想通りの階級差別・偏見の壁、予想外の純愛と人間関係、それらが複雑に絡み合い生まれる愛情・嫉妬・憐憫…人間のあらゆる感情が渦巻く様子、未来に漕ぎ出せる者・過去に囚われ飲み込まれる者など様々な人物描写があり、引き込まれました。大まかに2組のカプをメインに話が進みますが、どちらも甲乙つけ難いくらい良かったです。ハッキリ言って面白いとか笑っちゃう場面はほとんどないです。苦しく切ない感情が大半で涙も出ますけど、ラストはホッと温かく優しい気持ちになれます。読後感はスッキリする、一種のカタルシス効果があると思います。一読の価値、大有りの素晴らしい作品です。
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