このレビューはネタバレを含みます▼
値段だけ見ると高く感じますが、500P以上あるので安いくらいだと思います。同じくらいの値段で200P余りの作品もあるので得した気分です。1巻だけSS付のが出ていたので、そちらを購入しましたが、それは読んでも読まなくてもいいくらいの数ページの話だったので、こちらで揃えればよかったなと思いました。
悪役令嬢の父に転生するという設定が斬新で、その復讐の過程がとても面白かったです。ただ、もう少しアンドリムの復讐の動機が知れる描写があれば、スッキリした気持ちで読み終えることができたかなと思います。転生前の記憶を取り戻し、愛されて育った転生前の自分が甦ったからなのか、自分以外の人間を駒としか見られなかったアンドリムに娘への愛が芽生えた。その愛娘を裏切り死の宣告までした王太子と婚約者を地獄に堕とす。これで復讐は終わるはずなのに、どうして転生までして王国自体を滅ぼすことで復讐完了なのか。エピローグでいきなり話が壮大になったので、動機自体も深く根源的な何かなのかもしれません。まだ1回しか読んでいないので読み返して考えようと思います。
ヨルガとアンドリムの恋愛も大きな視点で見ないといけなくて、一般的なBLを読む感覚でいたので、やるせない複雑な心境になりました。最初はアンドリムのヨルガへの想いが恋愛感情には見えなかくて、どちらかといえばヨルガの方がわかりやすかったです。彼の憎しみの全てはアンドリムへ長年向けられていた訳ですから、そのエネルギーが反転するきっかけさえあれば魅了されるのも頷けます。そう考えるとアンドリムにも納得というか、そもそもヨルガの意識を自分に向けさせたのは彼だったなと思い至りました。若い頃から自分の対極にいるヨルガを意識していて、ユリカノを娶ったのもヨルガの婚約者だったからで、とにかくヨルガを汚して自分に屈服させたいという強い欲求が見受けられます。その土台があって転生前の記憶復活で今まで無かった情が加わり、想いも変化したのかもしれません。ドッグショーでヨルガを試すことに命を懸けたという点だけでも、とんでもない執着が彼の中にあることがわかるので、一見恋愛っぽく見えなくても、魂的な吸引力が2人には働いている気がしました。
色々書きましたが、とにかく面白くて没入できました。素晴らしい作品に出会えてとても嬉しいです。物語は1巻で完結していますが、続巻も購読して考察の参考にしようと思います。