アバウト ア ラブソング【単行本版】
」のレビュー

アバウト ア ラブソング【単行本版】

夏野寛子

PCクリアの優れたBL作品はあると証明

ネタバレ
2023年1月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ 試し読みをしたときには、自分にとって、こんなに感銘を受ける作品になるとは予想ができませんでした。

何に感銘を受けたかというと、年齢差の開きがあり、かつ下は現役高校生だ、ということを、「性欲」とか「愛」などのBL的な文法のなかでファンタジー的に覆い隠してしまうことをせず、逆に、それを真正面に据えて正統的な恋愛を描き、かつBLとしても最高に素晴らしい作品になっている、ということに対してです。

創作における倫理からの逸脱というのは、それが作品として必然的であればもちろん有りだと考えています(もしくは、当該の行為なりが作品世界において逸脱として位置づけられていれば構わない)。それでも、人が生きていくというときに「よくありたい」とか「他者を大事にしたい」「そのための言動はどのようなものか」と考えていることも、現実の人間の切実な感覚だと思います。なので、BLはファンタジーなのだから、と、半ば定式化した描き方に甘えるようにして、性暴力を愛として描き続ける作品ばかりだと、ずっと好きで来たし必要ともしてきたこのジャンルからもう離れたくなるな…と感じていた最近でした。

そこへ、こちらの作品で、年上の、かつ欲望に流されやすいという設定の人間が、年下の未成年者に惹かれる気持ちを持ちながらも、しかもその年下の彼の方から「なぜいけないのか」と迫られるような状況も訪れつつも、年齢を知った後では距離を取ることを選び、そののち、成人後に恋人同士となることを選ぶ、そういう2人のあり方を読むことができて、とても嬉しかったのです。

ポリティカリー・コレクトネスというと最近の現象のようですが、創作と時代における倫理観の問題というのは、いつの世でも切って切れないものだったのではないかと思います。

インモラルだけれども素晴らしい、という作品が一方の極には必要で、他方では、このような作品も必要だ、と強く感じました。
いいねしたユーザ31人
レビューをシェアしよう!