このレビューはネタバレを含みます▼
『旅すること』コンビニ店員の安藤海が家出少年を拾います。家に帰りたくない中田智也は有名進学校に通う高校生で、その日から誰にも見つからないよう安藤の部屋から一歩も出ずに安藤の持ち帰るコンビニの廃棄で暮らし始めます。夢破れフリーターに甘んじる安藤は、かつて自分も同じ境遇にあったので智也を連れ帰ったのですが、他に行き所の無い智也を守ろうとする一方で、若さという未来と希望を持つ智也に嫉妬し、己れの過去を悔いるのでした。気まぐれに智也に当たり散らしたり抱きしめたりする姿に胸が痛みます。どんよりとした描写が続くのですが、二人の迷子に薄陽の差すようなラストが印象的でした。『communication』『home』元ヤンのみのる君と恋人の圭吾くんのお話。毒親との過去に苦しむみのる君を圭吾くんがそっと支えます。『草叢に隠れた』サークル(たぶん)の先輩のあまりの所業と言い返すこともできない後輩の姿が痛々しい短編です。いずれもキラキラしたBLではありませんが、作者の独特の個性が溢れる一冊です。