世界は光に満ちている
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世界は光に満ちている

深井結己

優しい人たちの紡ぎだす懐かしさと温かさ

ネタバレ
2023年1月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ 終戦の年、結核を病んだ榎戸正之介は学業を断念して郷里で一人療養生活を送っています。母親違いの弟だけが訪れる家に、ある日墜落したB29の乗員が逃げ込んできます。怪我を負った敵兵のジョーイを元医学生の正之介は秘密裏に看護をし、画学生だったというジョーイと短く平和な時間を過ごすのでした。戦局も自らの命の期限も迫る闇の中で、恋する二人は春には早い、光に満ちた世界に満たされます。『象牙色の銀河』ハレー彗星が訪れた明治44年、15歳の楓は17歳の禮次郎に恋をしますが、ハレー彗星と共に禮次郎は東京へと去り、楓は別れの手紙を受け取るのでした。10年後、詐欺と病で財産も家族も全て失った楓は大切な葉書を持って、詐欺相手への仇討ちを覚悟して上京します。二人の一途さと時代背景とが見事な相乗効果をあげています。『上弦の月が沈んだら』毎年7月7日の父親の命日に、航太郎は父の部下だった天ヶ瀬さんと墓前で顔を合わせます。12年の歳月のうちに航太郎は天ヶ瀬さんに恋心を抱くまでに成長します。陰暦7日は必ず上弦の月になる、その月を天の川を渡る舟に見立てるお洒落な短編。『契る花』豊かな村の生贄という風習を巡るお話。『五月雨る抱擁』昭和の学生アパートの管理人さんと学生のお話。いずれも懐かしさと恋しさが優しい色合いで描かれる力のある作品でした。
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