このレビューはネタバレを含みます▼
潔癖で人嫌いなソロシンガーが、爆発的でエネルギッシュな演奏をするギタリストと運命的な出会いを果たす…という、音楽モノとしては王道の設定から始まるこのお話。2人はまるで正反対なのに、なぜだか互いの「音」に強く惹かれてしまう。演奏中の2人に言葉はいらない。まさに「ツーとカー」ってやつなんですよね。初めてステージで共演した後の居酒屋で、二兎が来間に「一人でやるよりずっと 気持ちよかった」と言うシーンが、2人の関係が深まっていく予感を仄めかすような、思わずドキッとするような雰囲気で…。しかしこの物語は意外にも、他のバンドBLとは一線を画す展開を繰り広げていくのです。人間の汚い部分を厭う二兎と、どこまでも真っ直ぐに音楽が大好きな来間。この2人は一見浮世離れしているというか、現実味のないキャラクターに見えるかもしれません。でもそれは大きな間違いで、彼らは実は人一倍人間くさくて、色々な意味で拗らせているんです…。
大胆なコマ割りで描かれるパワフルな演奏シーンは言うまでもありませんが、この作品の魅力はなんと言っても言葉選びのセンスだと思います。時には繊細に、時には衝動的に、散りばめられた無数の言葉たちが、胸の内に隠された人間の美しい部分も汚い部分も、丁寧に紡ぎ出していく。漫画に音はないけれど、この本はまるで彼らの作る曲のよう。カッコよく表すなら「音のない音楽」と言ったところでしょうか。まさに新感覚のBLでした。出会えてよかった!