また明日会えるよ【電子限定描き下ろし付き】
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また明日会えるよ【電子限定描き下ろし付き】

奏島ゆこ

素朴なタッチと構成の妙に喝采

ネタバレ
2023年2月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ フォローしている方々がおススメしているのを見てカートに入れ温めていたのをようやく読み「なんでもっと早く読まなかったのか…」と思うほど、心情の変化が心のひだにフィットする良作でした。
リーマンの国島が、波を流して深酔して倒れているリーマンの木村を新橋で助けて…という始まり。BLなら、ありがちな演出のように思わせておいて、それからの展開が非凡なのである。最初は飲んだくれて倒れていた木村の心情が、モノローグ込みで描かれ、あぁ、ゲイならではの切ない過去があったのかなあ…とその心中を想像させられるのだが、カバー裏面にある「恋愛とは恐ろしいものです。」と木村が国島の方を見ないで告白する場面。ここから木村の心情がモノローグで語られなくなり、読者もノンケの国島と同じ目線で、木村が抱えているものがなんなのか、知りたくなりストーリーに惹きつけられていく。さりげないように見えるこの木村の告白は、一人称の小説における主人公の独白のような効果のある現実にはあまりない突如受ける自己開示であり、上手いなと思わずにはいられない。その後はモノローグの主体が国島に移り、ノンケだけど価値観がニュートラルな国島の言葉に対する木村の反応に、読み手も救われた気持ちになりキュンとする。しかし、モノローグを多用せず、ちゃんと絵で木村にとっての恋愛の持つ重みを表現するコマ割りも巧み。素朴さを感じる絵柄でありながら、それが登場人物の感情にもざらついた手触りを生み、読み手の感情にも響き心地良い。
そして再びモノローグの主体は木村に、そして国島にと移り、ゆったり近付いてきた気持ちが、いよいよ吸引力を増して惹きつけ合う展開も、無理がなく、実に自然に感じられるのだ。そして良き人である2人に幸せになって欲しい、と思っている読者の期待に応えながら、読んでいる間、ありがちな展開に陥らずに描ききった作者の構成の巧さに内心喝采して読み終え、なんとも幸せな読後感だった。
BL作品には絵が美麗な作品が多くてそちらに目を奪われがち。それが本作をカートで温めてきた理由なのだけれど、ちゃんと読んでいる人は読んでいるのだなぁ、と感じている。2週目を読むと、冒頭の木村の涙の理由やさりげない回想の一場面の重みや伏線回収も見事で、落涙しつつ、その構成の巧さに再びやられる。いい作品に出会えて良かった。レビューでご紹介いただき感謝です!
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