起こらなかった恋についての物語
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起こらなかった恋についての物語

カシオ

短篇ながら表題に相応しい実兄弟もの

ネタバレ
2023年3月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 182ページ。
表題作32ページ+同録作品5話という、普通表題と同録が逆じゃない?というけっこう珍しい構成の本。その普通じゃないところにCanna編集部の心意気を感じます。
表題作は実兄弟もの。弟視点のみで、小学生の頃に兄が家庭教師に性的悪戯をされているところを目撃してしまったところから、ずっと背徳感にとらわれている様子がなんともザワザワします。そこからの終盤の過呼吸感あるモノローグが素晴らしい。実兄弟ものの背徳感を最大限に引き出して、だからこそのこのタイトルとあのラストという……起きては「いけない」から、起こら「なかった」。兄の気持ちとかその後の二人とかをすべて暗幕で包み込むような、良いタイトル。
……と物分かりの良いようなことを書いてますが、実際のところはあのラストには「ウワーーーッ!」ってなりました。ここで、ここで終わるの!?ウワーーーーーッッッ!!!
けどその悶え転がる感じを含めてのこの作品、著者らしさあるとても良い短篇だと思います。星5つ。

同録『彼らにまつわる2、3の事柄』は、先生と生徒をメインに、生徒の友人達や兄も絡んだ、群像っぽさのある学園もの。それぞれのキャラクターがそれぞれに動いていて、ちょっとした行き違いだったりが楽しかったです。先生がかなりダメですが、そのダメさも愛すべき人間らしさという感じで悪くはない(けど好きでもない)。少し話がバラついているのもタイトルどおりではありますが、こちらは自分の好みからすると星4寄りの3。
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