日出処の天子(完全版)
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日出処の天子(完全版)

山岸凉子

今もその表紙を見ると感覚無くなる神作品

ネタバレ
2023年3月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 完全版の7巻には厩戸皇子の死後、皇子の末娘の物語「馬屋古女王」があります。(記憶違いだと申し訳ないですが、あの当時の白泉社版には無かったかと。)

この作品を知ったのは小学生の頃ですが、表紙の厩戸皇子の一本一本描かれた髪の毛…それがさらさらと飛鳥時代の天女の様な美しい衣服を着けた腰の細い皇子に私は一目惚れ。ある巻の表紙の皇子は、衣服がちょっと乱れてたりして…なのに男らしい、そして美しい。中学になり歴史の教科書でその後の皇子と一族の行末を知って、呆然。毛人のバカ、蘇我氏のバカ!と。

高校生になると奈良線に乗って1人、斑鳩寺(法隆寺)に行きました。土曜日の学校終わり、少し陽が傾いた時刻。誰も居ない斑鳩寺は静かで、時間が無くなった様な空間に1人向かったのは夢殿でした。ある時、いつもは閉まっているはずの夢殿が開いていて、誰も居ません。特別公開?と思い、魅き込まれて中に。八角の均等のとれた空間。天井、白壁、木の美しさ。そこに、厩戸皇子を模したとされる救世観音菩薩を見上げました。その尊さ、表情。ムの一言。そして飛鳥時代の仏像ならではの曲線美。指の美しさ。離れ難く、でも畏怖も感じて。何故毛人と皇子があの様な結末だったのか、菩薩様を見上げながらやっと分かった様に感じました。皇子…毛人。あの夢殿の中だけで生きていけたら、どんなに楽だっただろうかと。

7巻…その後の物語。厩戸皇子を超えた末娘の物語。もちろんというか、彼女達一族が生きる事は、運命なのか業なのか…時代なのか…許されません。見上げる空。この作品に出会えて本当に良かった。そして私は生駒山連峰を思います。霊山、今も修験道として神聖な山々。そこもまた意味深い。
山岸凉子先生のこぼれ話は、萩尾望都先生の著書「一度きりの大泉の話」でも出てきます。先生が萩尾望都先生にしたアドバイス、人の想いの強さ、怖さを知っている先生ならではだなと。でもそれを含めて人(業の深さ)なのですね、皇子。そんな人の生きる姿は、だから美しいのかなと。
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