潜熱
」のレビュー

潜熱

野田彩子

滾る

2023年3月31日
先生の作品は、体の奥の方の眠っていた何かに火が着けられるようだ。
月の裏側の知らなかった熱を表に引っ張り出されるような感覚。
いつもながら読み終えて疼く、たぎる。
今回のお話も例に漏れず火をつけられてしまった。

まるでこれが運命だったかのように惹かれてゆく瑠璃の肝の座った瞳が印象的。大事に大事に守られてきた雛が自ら巣から転げ落ち、欺くことさえいとわずに真っ直ぐに飛び立ってゆく。
周りのは人は多分正しい事を言うのだけれど、間違っている事とは何なのだろう。

逆瀬川と言う男の悪魔的魅力、上に立つ者の圧倒的な迫力が、しわがれ始めた指先にまで色気づかせている。
彼よりも若いだろう瑠璃の父のつまらなさに驚く。同じ年上なのに同じ男とは思えないほどだ。
終始大人の対応だが空港での逆瀬川の表情が瑠璃に対する気持ちなのだろう。

独特の絵のタッチがリアリティを醸し出していると思います。
多分逆瀬川は瑠璃になら殺 されてもニヤリと笑うに違いない。
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