このレビューはネタバレを含みます▼
アニメ『幼魚と逆罰』のカタルシスのなさに驚愕して惹きつけられ、本誌派&コミックス派になり最終回を迎えた呪術ヲタです。
作品世界の人間は生きているだけで呪いを垂れ流し呪霊を生み出す業深い存在。だから怒りや恨みだけでなく、恋愛、友愛、親愛、家族愛すらも呪いを生み出して登場人物たちを苦しめる。何の罪もない善人たちがひねり殺されていく。芥見氏は救いようもなく荒廃していく現実社会を肌で感じ、作品に落とし込めるとんでもない作家であり、その繊細な感性が同時に人の儚さや生の美しさ、救いも拾い上げる作家だと感じています。
スピーディなバトルの背後にあるドロドロした人間の闇や切ない思い。作者は一コマで人間性を描き切る力があるので、スピードダウンすることなく重い人間ドラマを描き尽くします。そこが、『呪術廻戦』の本当の魅力だと思います。
全能感にイキッた少年達の挫折を描いた『懐玉・玉折』。2人の親友、五条と夏油は既に亡いのですが、その思想の根幹に強さによる線引き、選民思想があったことが悲劇のトリッガーだったと今では思っています。それでも五条は自分を殺そうとした男の遺児である伏黒恵に未来への希望を見出し、強く聡い仲間を育てることに全振りする。そして、人生の終わりに「もう五条悟なんてどうでもよくない?」と真の諦観に達し、六眼・無下限を持つ最強という呪いから自分を解放することができたのだと思っています。だから、死後には非術師鏖殺の闇落ち街道を突き進んで自分に介錯されることを望んだ盟友と、心置きなく笑いあえたのかと。
五条と夏油の失敗した友情は、姉のささやかな幸福を守るために術師として生きる伏黒と彼がエゴで命を助けた虎杖に受け継がれて花開いたのだと思います。虎杖は百折不撓の精神で五条とは異なる強さ、あらゆる人の命が尊いという信念の下にどこまでも共に生き戦うという強さを開花させたことで伏黒を救う。「手癖で作った料理を食べて」というささやかな生活への伏黒の眼差しがとてつもなく美しく、愛しい。
人に上下をつけず、慈しみ、どこまでも共に在ること。それが『呪術廻戦』世界が提示する救済なのだと確信します。
回収されない伏線は山のようにありますが、この結論に達することができて良かった。本当に読んで良かったです。