有賀リエ連作集 工場夜景
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有賀リエ連作集 工場夜景

有賀リエ

考え抜かれた設定

ネタバレ
2023年4月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 作者さまは凄いと思った。
被害者家族と加害者家族である2人の、超絶に切ないラブストーリー。碧の父親が犯した犯罪を性犯罪にしたことで、家族には全く非がないことがはっきりする。これが殺人や傷害などの暴力犯罪だったり、盗みや詐欺、収賄などの金銭的な犯罪だと、「なぜ止められなかったか」とか「その金で暮らしていたくせに」とか、世間はよりごっちゃにして家族を見ると思う。また、性犯罪であるがゆえに被害者が加害者側に抱く嫌悪が理屈でなく、本能のものになる。
苦境に耐えながらも自分の価値を上げる努力を続けてきた碧。家族に罪はないことをしっかり認識し続けてきた貴臣。
地味な只の人である2人の、純粋な愛情は、昼間は冴えない工場が夜には不思議と美しい姿を見せてくれるように、気高く浮かび上がる。
本筋と離れたところで、気になっていることがある。碧の弟くん。彼は性犯罪者の息子として、碧よりずっと過酷な立場だ。いじめられたエピソードはあるが、もう一つ自分がその血を引いている=自分もそういうことをしでかすかもしれない、という恐怖を抱えて生きることになるんだろう…。
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