汝、星のごとく
」のレビュー

汝、星のごとく

凪良ゆう

頭が痺れるような読書体験でした

ネタバレ
2023年4月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 凪良作品としてはこれまで美しい彼や流浪の月を読んできたが、本屋大賞受賞を機に読んだ本書は、それらとはまた違う、恋愛を主軸に置きながら、より広い社会問題に触れつつ読み手の心を震わせ、最後、冒頭からは予想もつかない光景を見せてくれる作品であった。
あらすじには、瀬戸内の島で出会った高校生のあきみとかいの名前があり、この2人の恋愛物語が始まるのかと思ってプロローグを読むと、結婚したあきみと毎週恋人に会いに行く夫の描写で始まるという不穏さが印象的。それから場面が切り替わって描かれる高校生の2人も、それぞれ欠落を抱えた母親に人生を振り回され、分かり合える唯一の存在として惹かれながらも、卒業後、櫂は漫画原作者として東京で仕事をし、暁海は島に残る。その後の2人の境遇の違いと、生まれるすれ違いが切ないだけでなく、都市部で育った女性である自分にとっては、女性である暁海が、母親や地元に絡め取られて、自分のために生きることを諦めてしまいそうになる場面では女性であるハンデを乗り越えようとしてきた自分の中の女性性と、仕事上培った男性性との分断を生み、胸苦しい場面の連続だった。そして最初、暁海視点で紡がれた後に紡がれる、櫂視点の物語が、櫂にとって暁海がいかなる存在で、抱いている想いと相反して生まれるすれ違いの結果の別離が、しみじみと切なくて、嗚咽が抑えられなかった。
この切なさの後、暁海は女性だから自分の人生を若くして諦めなくてはならないのか…という諦念が漂う描写の中で、暁海、櫂の高校の教師である北原先生…実に飄々としたフラットな人生観を持つ人物で、発する言葉にその都度ハッとさせられる、作者の分身とも思える魅力的な人物…や、暁海の父の恋人瞳子といった人物が関わることで、停滞していた暁海の周りの空気が動き出し、遂には疾走感にすら変化して生まれるカタルシスが素晴らしい。その後の櫂の描写を経て、エピローグに辿り着くと、プロローグと同じシーンが、全く違う意味を持つものであることを思い知らされる。唸るしかない構成力。強烈な、初めて覚える読書体験だ。傍目にどう見えるかは重要ではない。人生は自分で切り拓け。ただし大切な事は他人に告げなくて良い。そんな作者のメッセージを感じ、後を引く余韻が心地良い。本書はオーディオブックで聞いたが、良い作品はどう味わっても良いのだと実感。通勤時間などの有効活用にお勧め。
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