レンタルタマちゃん
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レンタルタマちゃん

らくたしょうこ

変化を受け入れること

ネタバレ
2023年5月3日
このレビューはネタバレを含みます▼ 静かに、かといって少しずつ確実に足元を濡らしていく小雨のような漫画でした。読了後、音もなく涙が溢れて速攻紙をポチりました。特典、全部買うかって思ってます。それほど深く抉ってくる今作。泣いちゃったよ…

国が社会保障制度を諦め各自治体によって住みやすさ生きやすさが変わっている世が舞台で、転出が増える事にストップをかける策を練ってる役場の役人がソレを知って逃げ出しちゃうくらいヤバくなっていく街で、「この街に生かしてもらい、育てて貰ったから」という理由から役場の職員として働く矢澤。空いた時間は孤独に暮らす高齢者の家を回ったり、孤児院に差し入れしたりと精力的に福祉活動を行っている矢澤の唯一の癒しは、チラシに書いてあった「猫ちゃんレンタル」で「タマ」を借りること。ヤのつく人が連れてきた「タマ」はどうみたって人間なのに動きや嗜好等は猫そのもので、不満が続出し鬱屈を役場にぶつける市民との対峙、寂れていく街、死にゆく見知った高齢者たちー…砂の城を築いても崩れ落ちていくかのような日々に、タマだけが矢澤の癒しだった。
レンタルを繰り返す度に、タマの自由奔放で感情に機敏で、何もかも忘れてただタマと遊ぶ時間が愛しくて、タマがずっと家にいてくれれば良いのに…お金があればなぁ…と、つい、言ってしまった矢澤。それを聞いたタマは、ある行動を起こしてしまいー…。

という話なんですが。廃れていく街が舞台なのでそれぞれの人間の最期が人間味を感じながら出てくるので、そういったのが苦手な方は注意かもしれないです。でも、素直に「ありがとう」と言わず変わりゆく風景を愛しく感じながら矢澤に感謝して亡くなった老人や、こんなハズじゃと呆気なく亡くなったヤーさん。「悪いことばかりじゃなかった」「良い人生だった」「やり尽くしたから死ぬのが怖くない」そう自覚して、思って逝ける人はどれだけ居るんだろうか。
死は救済とも言えるし、切っ掛けでもある。死ぬまで一緒に居て欲しい、一緒に幸せになりたいと自覚してタマなりに動き、矢澤なりに動いて生きる事は本当に救いだなと思う。リセットしてずっと一緒に生きていって欲しい。苦難を共に乗り越え、死が二人を別つときが来ても、ずっとずっと幸せに生きて欲しい。

柵から解き放たれ、お互いに夢じゃなく現実の中で心から愛しいと言い合っていってくれ…2人の男たちの生き様、本当に見させてくれてありがとう。
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