星屑家族
」のレビュー

星屑家族

幌山あき

読むなら是非下巻ラストまで読んで欲しい

ネタバレ
2023年5月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 親が子供に暴力を振って起きる悲しい事件に接したとき「こんな奴、親になる資格なんてない」と思ったことのある人は少なくないのではないか。
そんな発想を現実にした社会は、果たしてどうなるのか。それを描いたのが、この作品だ。
審査に通らないと、子供を育てる資格がない。となるとどうなるか。一見、児童虐/待を防ぐには良さそうに見えるけれど、出産という出来事自体は資格の有無を問わないため、親に対する選民思想が悲劇をもたらす光景は痛々しい。一種のディストピア物かとさえ思えてくる。
ただ、この作品の重点は、そこにはない。資格の有無を判定する審査官は、全て「子供」で、志望者と同居して、適性を審査するのだ。審査官になるために、大人が子供達に、親子の愛着関係の大切さを講義する場面はシュールそのものなのだが、読んでいるうちに、こんな役割を子供が果たすとは、その子供達は、それ以外の子供達の犠牲になっていないか?という疑問が湧いてきて、作者の視点がそこにフォーカスしている事に気づかされる。
本作では、審査官であるヒカリが、これまでに出会った志望者とは、明らかに違う人生を送ってきた大喜、ちさ夫婦の下に更新審査の為に赴き、これまでに出会った志望者の回想と対比を経て、この2人の人生のバックグラウンドと、互いを思いやる2人に触れるうちに、老生しつつあったヒカリの内面に生まれる変化が描かれる。その描写は、読んでいる者に、人は信じるに足りる存在か否か、ヒカリに生まれるのは、希望か絶望か、最後を知るまで祈るような気持ちで、ページをめくらせることとなり、そこから生まれる切迫感がこの作品の存在感を際立たせている。読むなら、是非、下巻まで読んで欲しい。最後まで読んでこそ、この作品の良さが理解できるから。淡々とした絵柄なのに、ここだけの話、予想外に大泣きでした…。
設定はSFでありながら、内容は設定の解説に走らず、逆説的に人にとっての幸せとは何かを描いた点に普遍性があり、魅力的。
本作は、たまたま新聞の書評欄に掲載され、読んでみて良い作品だなあと感銘を受けたタイミングで、高評価ランキングの上位となっていたので、レビュー。まだレビュー数は多くないけれど、関心のある読者に読んで良かったと思う一読者の気持ちが届きますように。
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