このレビューはネタバレを含みます▼
世界観に一切のブレがなく、読者を優しく包み込むように物語に引き込む力のある、素晴らしい作品でした。正直に白状すると、読み始めは物語の方向性が掴めなくて(BL要素はほんの少しで、領地再生中心の話かと思い)人生2回目くらいのリタイアを考えました。その点では低評価の人の意見にも少なからず同意見だったりします。領地再生>>>BLくらいのイメージで…現代に置き換えて、世界中の国家・人種・政治経済・農工業・貿易・医療・法律・外交・軍隊・教育・死生観など、あらゆる人の営みについて考えさせられました。扱う内容が多く広範囲なので、それぞれの事象について見解が浅めであった感は否めませんが、それでもやっぱり思いもかけない黒幕や思惑・見事な伏線回収などで最大限に魅せてくれたと思います。もはやBLだけに止まらない壮大な愛(自国・郷土・人間・師弟・伴侶)の話で、ラストは分かっていても涙が止まらないくらい感動しました。エルンストに共感しすぎて、彼の喪失感の何十分の一も分かってないと思うけど、2・3日引きずってしまった程です。特にガンチェの「共に行きましょう。辿り着く場所まで。/共に生きましょう。許されるときまで。/共に逝きましょう。安住の地へ」という深い愛の言葉に胸を突かれました。こんなに素敵な「いきましょう」が3つもあるなんて、日本語って素晴らしい。色んな意味で大きな感動を与えてくれる作品ですが、主人公のエルンストが元皇太子という事で…世間知らずで擦れてないが為に(特に下関係の話で)あけっぴろげな言動で毎回妙な空気になるのが楽しかったです。世界観といいストーリーといいもの凄く骨太なので、確かにBLでなくてもいいのかもしれません。でも、BLでなくても読む価値があると思わせられる肉厚な作品だと思います。