ブランクコード【単行本版】
」のレビュー

ブランクコード【単行本版】

サノアサヒ

愛という言葉の重み

ネタバレ
2023年6月2日
このレビューはネタバレを含みます▼ ただ藍に生きて欲しい恵介と、身勝手な愛情で総てが無になった藍のお話。


自覚がないまま藍に惚れている恵介が、バンドメンバーの先輩の高校卒業祝いに2人(重要)で曲を作ってあげようと提案し、放課後にスタジオを借りて練習していた。しかし、完成目前というときに恵介が補習となり、藍一人がスタジオ入りしていた。その時に、藍はスタジオのスタッフから暴力を受けた。「愛してる」と言い放ち同意もなくその男は無理矢理自分の欲をぶつけてきた。しかし恵介が来た途端「女みたいな顔して目をして誘ってきやがって」「俺は悪くない」と言い放って逃げた。
そこから藍は壊れてしまった。

この話は、性被害にあった藍が「今すぐ死んでしまいたい」と言う思いを抱えながら、恵介に教えてもらった音楽という居場所だけを支えに苦しみながら生きているんですが、藍が性被害にあってしまった原因を(予期せぬ出来事すぎて他人は「それは違う」と言うのですが)作ってしまった恵介が「愛情」を持って藍を支え、藍のために居場所を守ろうとするもすれ違いが起きる話でもあります。

藍は加害者から理不尽にも「愛してる」という言葉をかけられながら暴力を奮われたので、初めて他人から向けられた「愛情」=性暴力と結び付いてしまってる。本来、幸福の証でもある喜びが、忌々しく呪いの言葉になっている。現に藍はその時期の記憶や気持ちがあやふやになっていて。藍はもう、死に体のまま、音楽と恵介に生かされているのです。
恵介も、藍が性被害に遭って8年。愛情が同情に変わり、でも年月が経てば経つほどやはり愛情でしか藍を支えてあげられないんですよ。藍もずっと恵介から「自由になっていいよ」と言われたい。でも恵介は藍にただ生きていて欲しいから、呪いの言葉も言えず解放する言葉も言ってやれず、ただ藍だけの為に生きて藍の場所を守り支えることしかできない。藍にとって生きるとは地獄でしかないけど、ただただ恵介から無条件に愛を捧げられて、藍もようやく自覚できた恵介からの過分で温かな「呪いの言葉ではない言葉の意味」を受けて時を刻むことを受け入れる話でもあります。

愛してるというには簡単だけど、「愛情」は無限・無数の感情の集合体なんだなと強く感じた話でした。性被害に遭われた経験がある方が読むには注意が必要です。男女関係なく性被害が減るよう願うばかりです。
いいねしたユーザ30人
レビューをシェアしよう!