蟷螂の檻
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蟷螂の檻

彩景でりこ

闇BLの最高峰

2023年6月6日
昭和時代に地方の名家で跡取りとして厳しく育てられたものの両親の愛に恵まれなかった若き御曹司と、その名家で幼き頃から坊っちゃんの世話をし、快楽さえも教え込んだ年上の使用人との闇深き執着愛のお話。
色々なBLを読んできましたが、この作品は他のものとは一線を画すものではないでしょうか。対比できるものがない程独特の世界観があり、真似できない程の闇が漂う唯一無二の作品だと思います。
お話の内容を突き詰めて考えると、分からないことだらけです。蘭蔵が生まれた経緯(本当に政蔵と妹の近親相かんによる子供なのか)、蘭蔵と政蔵の関係は何故みだらなものになってしまったのか、座敷牢に閉じ込めた理由、典彦の母親は誰かなど、全てが謎で明らかにされていません。背景が全く分からないというのは、いつもであればモヤモヤが残りスッキリしない不満が残ることが多いのですが、この作品ではその不満を超越した世界を作り、完全なる闇に読者を引きずり込む、そしてその抜け出せない闇で魅了するというある種常識を覆した手法が斬新かつ素晴らしいと思いました。
昭和という一昔前、地方の名家という閉鎖的な環境だからこそ起こった長年に渡って積もり積もった業が、育郎の世代で噴き出し爆発して壊れていく。その過程において、常軌を逸した関係や型破りな程に蔑まれた生活を強いられ、「普通」が歪んで育った育郎と典彦の執着とも共依存とも取れる愛を生み出し、深い闇へとゆっくりと落ちていく。理由も理屈も背景も環境も、全てが闇で、愛さえも闇に吸い込まれていくこの世界観は闇BLの最高峰と言っても過言ではないと思います。
快楽を教えられ艶めかしく成長する育郎の物語でもあり、サイコパスなほど育郎をなぶり、傷つけ、育郎の全てを手に入れるためには手段を選ばないほどの狂愛を向ける典彦との暗く重い愛の世界。自分の全てを捧げたい愛と愛する者の全てを自分のものにしたい愛、カマキリとハリガネムシのように喰う喰われる幸せが描かれた作品です。
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