WHITE NOTE PAD
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WHITE NOTE PAD

ヤマシタトモコ

フィルターが無い自分

2023年6月11日
宇宙にでも放り出されたらヤマシタ先生の頭の中を理解することができるのだろうか。
一度先生の作品の魅力に囚われたら自らその宇宙に飛び込みたくなる。

入れ替わり作品は数多いけれども、肉体と中身の乖離からむき出しの自分に焦点を絞った作品はあまり読んだことがない。
混乱して絶望して欲情して現実へと歩み出す主人公ふたりの心情に思いをはせる。

私は麻酔から目覚めた時、目も開けられず口もきけず肉体に閉じ込められたと思い恐怖から我武者羅に全身で叫んだことがある。多分数秒間の出来事だったとは思うのだけれど強烈に恐ろしかった。
恐ろしかった事は恐ろしかったという事実で記憶に残っている。
恐ろしかったのに薄れました。
日々の生活や新しい出会い、流れる月日と混ざって悪夢だったのかと思ってしまう。
私は彼らとは逆に縛りつけられたが同じような恐怖だったのだろうと思えてしまう。にも関わらず、私同様混ざりあってしまう。
別のオリジナルになるのだ。

その葛藤が少ないセリフや周囲との関わりで浮き彫りになっていく様はまさにヤマシタ作品。
この味わいがクセになる。

自分の過去と未来をみつめるふたりのエンディングもさすが。

今回もすごく濃い作品に出会えました。
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