いとしの未来くん
」のレビュー

いとしの未来くん

吉田ゆうこ

哲学的

2023年6月14日
吉田先生の作品は哲学的な、形而上的な、思弁的な…匂いがします。BLを読んでいたはずが次第に「好きって何だっけ?」「愛って何なの?」等々な思考に陥ってしまっています。なまじ身近な題材だけに、改めて自らに問うてみると明確な答えを見いだせずに途方に暮れてしまうこともしばしばです。
今作品も期待通り(?)に思考の坩堝に落とされてしまいました。
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誠実である、というのはかなり難しいことだと思います。更に全方位に向けて誠実である人間なんて見たことも聞いたこともありません。とことん誠実であろうとする人物を「よく言えば純粋・悪く言えば馬鹿」とは言い得て妙だと思いました。そして2次元でしか存在しない無垢なキャラクターだと思います。
そんな無垢な未来くんの恋愛は側から見ると、痛い。実にイタいのです。相手に誠意を持って真剣に裏表なく向き合おうとすればするほど、相手の欲望を増長させてしまう…逆の立場から見ると、無垢な存在に対峙した時に自分の人間性を問われるようで、恐ろしいと思ってしまいました。

2次元的なキャラではありますが、実は誰の心の中にも「未来くん」が存在しているようにも思えます。そしてうっかり未来くんに相対してしまった3人の男たちも自分の中に居るような気がしました。ただ現実には大人になる過程で未来くんのようにはなれないし、未来くんには会えないので3人のような行動を取る機会がないだけなのかも知れません。

そんな未来くんをずっとそばで見ていた日平だけが、なぜか唯一の現実的存在として己を坩堝から救い上げてくれた気がします。

しばし思考の宇宙に漂いながら、BLとしての痛さや幸せを満喫できました。かなり気持ちの良い読書でした。
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