このレビューはネタバレを含みます▼
この作品を読んで、「境界知能」という言葉を初めて知りました。「境界線上の人々」の生きづらさ、周囲からの理解の得られにくさを知れば知るほど、いたたまれなさに胸が痛くなります。実際に起きた事件を通して、加害者の人間像を深く掘り下げていく構成です。公衆トイレで出産して赤ちゃんを殺害した女性の話が、個人的には一番印象に残っています。実際の事件では、多目的トイレで出産後、赤ちゃんを殺害。公園に埋めた遺体が1年後に発見されて逮捕されています。一般的なメディアは「赤ちゃんの殺害方法の残酷さ」や、赤ちゃんの遺体を紙バッグに入れたままカフェに行き、ケーキや飲み物の写真をSNSにアップするなどの「行動の異常さ」ばかりを強調して、「考えなしに妊娠して、行き当たりばったりに赤ちゃんを殺害した馬鹿な女」のような報道ばかりでした。私自身もその報道を鵜呑みにして、そのニュースを見る度に加害者に対して憤っていた記憶があります。しかしその後、某誌の詳細な取材記事で加害者が境界知能であり、今までの報道から抱いたものとは全く異なる事件の様相を知ることになり、強い衝撃を受けました。境界知能について知らなければ、こんなにも事実とは異なる報道になるとは…。ちなみに加害者側は判決後に控訴していますが、それは刑を軽くしたいからでは決してなく、加害者が境界知能であることを理解した上での判決を希望しているからです(専門家による境界知能についての説明と、加害者には「特別な配慮が必要」との提言を無視した判決になったため)。報道にせよ判決にせよ、同じ過ちを繰り返さないためには、まずは境界知能について私達みんなが知ること、理解することだと思います。この作品が一人でも多くの人の目に留まり、境界知能についての認知と理解が深まることを願わずにはいられません。