魔法少女サン&ムーン~推定62歳~
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魔法少女サン&ムーン~推定62歳~

サメマチオ

もうちょい、感情をぶつけ合ってだね…

ネタバレ
2023年8月6日
このレビューはネタバレを含みます▼ かつて魔法少女だった2人の老女の魔法のコンパクトを使った余命延長チャレンジ。少女時代に2人が川原で拾ったコンパクトには魔法少女に変身する効果とともに、浦島効果があった。コンパクトを開けば敵が出現し、闘いが始まる。使えば使うほど2人は幼いまま取り残され、知人と生きる時間がへだたっていく。2人で魔法少女として生きていくよりも、人のなかで生きたい。そう結論を出して、2人は一度コンパクトと決別したはずだった。「魔法少女」という特別な役割から贈られる祝福と、呪いとの決別を。しかし老境に入り、片割れの余命宣告を契機に2人は再びコンパクトを開く。せめて初孫が生まれるまでは生きたい。片割れの願いを叶えるためにーーー。魔法という題材を扱っているので、どういう決着になるか期待して読み進めたけれど、風船が徐々に小さくなっていくような、寂しい読後感でした。死に向かう老女と、それを見つめる老女の心の整理をつける静かな物語。魔法の正体は結局明かされなかった。高次生命体が落としたナリキリグッズだったのかな。…正直に言おう。BBA百合が見たかった!!!巨大感情のぶつかり合いが!!!!見れなかった!!!!残念です!!!!!起承転までは面白く読んだけれども、だんだん破綻していって、とっ散らかったまま結へ向かうので、読んだあとに「終わっちゃったなあ…」と残念な印象。第三の魔法少女は必要だったのかな。魔法のコンパクトの設定が(1)敵を呼び出す。その敵は、戦闘ごとに記憶がデリートされているので、コミュニケーションはとれない。(2)コンパクトをひらいた対象者の容姿能力を記憶する。しかし数年単位でコンパクトをひらかない期間があると、以前のデータはコンパクトに残らず、次に開いたときの容姿能力が記憶される。(3)コンパクトをひらいた対象者を魔法少女(10代前半)の容姿とコスチュームに変身させて、魔法の使用も可能とする。……細かく設定を開示してくるからドンデン返しあるのかな、と期待していたのに、なーんにもなかった。伏線ではなく仕立て糸やほつれ糸だったのね。残す側より、残される側の孤独や苦難を考えてしまう読者なので読み進めるにつれて気が重たくなる。老境で体がどんどん動かなくなるこの先に、失った友人と、失った若さを恋しいと思うだろう彼女の未来を思うと暗澹とした気持ちになる。手放したことを「愛」と表現するには、ちょっと色々と薄かったな。
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