ダブル
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ダブル

野田彩子

一演劇ファンとして感謝するしかない

ネタバレ
2023年8月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 野田先生が、つかこうへいの「初級革命講座飛龍伝」を観劇し、そこで受けた衝撃から着想を得た、という本作。演劇ファンを自称する身として、あまりにもどストライクな作品で、役作り過程のリアルさ、数々の演劇作品との多重構造の素晴らしさに絶賛スタオベ中です。
同じ劇団に所属する天才肌の多家良(たから)は、元々友仁(ゆうじん)の出演する舞台を観て友仁に憧れて入団するも、生活力のなさから、食事の世話から台本読みまで口授するような生活を何年にもわたり続けている。友仁がそこまでする姿に、野田先生なので、色々期待しそうになりますが、役者としての業や嫉妬の一方、多家良の才能が開花された姿を見てみたいという複雑な感情が入り混じっているように感じます。
他方、多家良は、生まれ持った才能と器量から、脚光を浴びていくものの、憧れでもあった友仁と共に役作りに取り組むことに幸せを見出していたため、役作りをしようとしても、友仁と作り上げた役の解釈にこだわってしまったり、2巻表紙のようにイマジナリー友仁と役作りをしようとして演出家と衝突したり。結果的に役者として友仁から独立し、依存関係からは脱却していくものの、4巻ではついに、初級革命講座飛龍伝でWキャストとして共演することになり、ある晩、抱えてきた気持ちを抑えられなくなった多家良が、友仁に対する恋情を伝えようとし、抱かれる妄想までするが…というところまで、話が進展しています。
BLを嗜んでいる者としては、2人のハピエンを見たい。
が、つかこうへい作品に着想を得て、脚本、演出全てを担っている野田先生が描こうとしているのは少し違う方向の関係のような気がします。
元の舞台作品は、全学連闘争後、機動隊員だった山崎が、元活動家の熊田を焚き付け、最後熊田が立ち上がる姿を見て山崎は生き甲斐を取り戻すというもの。多家良は敵対しながら実は熊田に憧憬を抱いている山崎に自分をなぞらえ、友仁は多家良の情欲に気付きながら女のように扱うのかと衝突し感情のベクトルがズレてます。タイトル通りWキャストとして同じ役を演じる中で、互いに焦がれ合いながら、友仁と心も身体も一体化してでも友仁に最も近い存在でいたい多家良と友仁の喰うか喰われるか、その後何が残るのかという関係を役柄を通じて表現していくのではと。BLとして読み解く余地を残しつつ(受×受?)それを超越した精神的絆を描く…のか?非常に楽しみ
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