五十、六十、よろこんで。
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五十、六十、よろこんで。

ワイエム系

モヤモヤが残る

ネタバレ
2023年8月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ 「いくつになっても恋愛は関係ない」という主旨の漫画であることを踏まえて、あえて。
指摘されている方もいる通り、六条氏は今時の還暦としては少々年齢がいったダンディさ。それでいて中身は50代くらいといった感じです。
アキさんはかわいいが、元々の性格と大学卒業後すぐ嫁入りして世間と隔絶されていた、という点を考慮しても、さすがに女性としても人としても浅く感じました。現実には50になってもこんなに浅くて幼い人間がいる、というリアルを描いてるのだとしたら作者様の人間観察力はたいしたものだと思いますが、この漫画で描きたかったのは「そういうこと」ではないはず。もう少し男性がマドンナの幻影を追いかけてしまうほど、説得力のある人間的美点が備わっていてほしかったです。
「シスコンの兄」「マウント取りたがる当て馬女性」など、いかにもなあざといサブキャラが目立つのもマイナスです。もっと内面的に自立したキャラにはできなかったのでしょうか。
美しい作画とメイン2人のピュアさという砂糖でコーティングされた結果、さわやか穏やかなラブストーリーに見えていますが、正直なところやってることは身も蓋もない生々しい老いらくの恋物語です。

ところでアキさんと離婚した夫の話はとうとう出てきませんでしたが、こちらで購入した版に未収録なだけでどこかには収録されているんでしょうか…
嫁ぎ先のことやアキさんが若い身空で結婚しないといけなかった事情、そしておよそろくなものではなかったであろう1度目の結婚生活についての描写がないまま完結なのは大変遺憾です。話の主軸ではないものを省くこともストーリーテリングのひとつですが、アキさんの過去に関しては絶対に本編中に必要でした。きちんと描けていれば、アキさんの自己肯定感のなさや年齢不相応の稚さをもっと深堀りできたでしょうし、六条氏の煩悩もさらに描けたのではないでしょうか。
わずかな描写を見る限り、嫁ぎ先は相当な名家で夫は人間味少ない方だったと思われますが、読者の想像に任せるにはあまりにファクターが大き過ぎます。作者様の中である程度構想があったならきっちり出し切ってほしかったです。

繊細な作画力や読みやすいコマ割り構成力など、最後まで漫画を読ませる力はある作者様とお見受けしたので、今後の作品ではもっと深みあるキャラクター描写力を期待します。
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