玉響
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玉響

ゆき林檎

ビー玉の音が聞こえてくる

ネタバレ
2023年8月19日
このレビューはネタバレを含みます▼ 貿易商の一人息子が全寮制の高校に入学すると、同室になったのはかつて唯一心を許した幼馴染みだった。そんな再会から始まる二人の愛のお話。
時代物の生き辛さや息苦しさを絵の雰囲気やお話のテンポで上手く表現していると思います。また、この時代特有の自由とは何かを追求していて、身分・立場・価値観の中で自分らしさを表現することの難しさが伝わってきました。
真面目で清廉な麻倉が恋に悩む姿はいじらしく、手練れな立花がいつも優しく側で支え見守る様子はまさに愛。好きを認識するタイミングにズレがあり離れた時間はあったものの、お互いへの想いは小さい頃のままだったのかなと思いました。麻倉は立花に自分のどこが好きか聞いていましたが、第4話の表紙を見て、こんな風にいつも裾をギュッと握っていられたら可愛くて仕方ないよなと私も思ってしまいました。
家業の衰退や関東大震災と自分たちではどうにもならないことに巻き込まれ、無力さを感じながらも捨てきれない想い。様々な困難もありながら、共に過ごせた時間があったことの幸せ。「瞬く間に過ぎた愛しい日々」、この一文に彼らの幸せが滲み出ていて心に響きました。
立花が小さい時のビー玉をずっと大事にしていたこと、それが度々カチカチと聞こえてくるような静かな愛の物語です。
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