寝台鳩舎
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寝台鳩舎

鳩山郁子

彼らに目的は無い。ただ辿り着くことだけ

2023年9月7日
近所に鳩舎があって、子供の頃は有名な鳩使いが夜明けと夕方、笛で沢山の鳩を飼い慣らしていた。
その業界(!)では有名で、近所では糞で有名だった。そこの鳩たちを分けてもらう人、餌などのことを教わりに来る人、沢山の出入りがあったようだが、子供心には鳩は群れで存在しいつも大空を半径の大きな円を描いて飛ぶ巨大な塊なのであり、一羽一羽の小さき存在を具に想像することはしなかった。
ここに鳩が個々に名前が付けられて人の姿を借り、戦時下のそのdestinyを見せつけられると、鳩の生き方に注目した作者の感性に圧倒されてしまう。その、驚異的に細かい描写力が、画面一杯に埋め尽くされて勢いよくもがくように迫ってきていて、帰る、という事に拘る恐ろしさや、彼ら鳩達には抗えなかった彼らの生き方、それを利用した狡猾さを、ファンタジックな視点よりももっと危険な冷静さを、思う。鳩山先生の鳥モチーフは初めてではないが、その、「伝令の天使」の身体の空中前後回転や夥しい仲間との集団飛行を人間の絵に置き換えた事は、ヒトの一生のようなものを見つめる作用が働いて、一体誰がヒトで、誰がハトか、境界を無くして見入った。
正直、夢とかがない感じが残って、すごかったな、で終始してしまう。
それもまた、私にはイッツノットマイカップオブティーのピジョン版として、裏返しの皮肉なのではないのかと感じた。(学生時代に探鳥会をやってた人間とは思えない発言になるが。。。)

鬼才にきっと間違いない。
必見であると思う。
その価格を払うことに躊躇無い限り。
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