ネタバレ・感想あり寝台鳩舎のレビュー

(4.8) 6件
(5)
5件
(4)
1件
(3)
0件
(2)
0件
(1)
0件
燃えるような帰巣本能ゆえの…
2023年7月25日
軍鳩の哀しみ。戦時中に通信兵器として利用された伝書鳩たちを、少年の姿で擬人化したダークファンタジー。どこにもたどり着けずに彷徨う魂、繰り返し訪れる死…、ストーリーの凄みが絵の繊細さと相まって、痛ましいほど美しい。
…余談ですが作品解説(紙本の帯のコメント)に「古屋兎丸、心酔。…少年たちは鳥肌が立つほど、美しく、痛い。」と書かれているのを読んで「鳩だけに!」とツッコミ入れたのは私だけではないはず…笑
美しさの頂を見たよう
2022年6月17日
軍鳩を擬人化した物語。

別レビューでも説明がありますが、作中の重要なアイテムである箱はジョセフ・コーネルの「無題(鳩小屋:アメリカーナ)」をモデルとし、登場人物であるマスターはコーネルの俤を借りたそうです。
この辺りの知識を入れた上で、読むことをオススメします。

it's not my pigeon.
それは私の鳩ではない。
私の知った事じゃない。

序盤でグサリと胸に刺さった言葉。
ただ一心に家へ帰るのだと飛んだ鳩たち。
純粋に、ひたむきに。
図らずも重い言葉を背負わされ、そして散っていった翼。

物語が紐解かれると同時に、
少年ダヴィーの言葉に、
彼らを思い苦しかった気持ちや祈る気持ちが
どこか遠い彼方に届くような気持ちになりました。

本作は独自の解釈であり、ジョセフ・コーネルの作品や人物の意図と異なると仰られていますが、コーネルという人物を辿っていると、鳩山先生がわざわざマスターの俤に彼を重ねた理由を見たように感じました。

作品の内容が素晴らしいのはもちろんですが、
美しい描写が画集としても成り立つレベルです。
でも、美しいだけじゃないです。
ダヴィーの感じている世界。
変わっていった彼の世界。
色々な角度から、何度も読みたくなり、
その度にやはり美しさに吸い込まれていきます。

同じくタイトルに鳩のつく『エルネストの鳩舎』も
鳩にまつわる短編がいくつか収録されています。
表題作が本当に美しいです。
本作に通ずると感じる作品が数編あるので、オススメします。
著者の集大成的傑作
2022年5月22日
軍の通信用に使われた移動鳩をモチーフとして擬人化した作品。表紙を見るとわかるとおり、鳩山郁子が描いた少年の集団ってそれだけで、反則だろってくらいの迫力があって良いですね。ダークロマン、という宣伝文句はちょっとドロっとした印象があってしっくり来ないんですが、他になんと表現すべきかは……私的には、月明かりの無い星の夜空の澄明さを感じます。
少年、鳩、友情、生と死、祈り、今まで著者が描いてきたかなりの要素をこの作品という“箱”に収めたような、集大成と呼べる傑作。
予備知識として「箱のアーティスト」と呼ばれる、ジョゼフ・コーネルのことを、ググってすぐわかる程度にでも知っておくと良いと思います(私自身それくらいか以下しか知りませんが、大丈夫だと……信じたい)。コーネルの姿をしたマスターなる人物が、作中に「銀河鉄道の夜・初期形第三次稿」のブルカニロ博士の趣で登場します……と書いてて気付きましたが、これは鳩山版「銀河鐵道の夜」なのかもしれません。
あと、作中に登場する箱のモデルとなっているのが、コーネルの作品「鳩小屋:アメリカーナ」だそうです。
It’s not my pigeon ーーーそれは私の知ったことじゃない、そんな言葉から動き始めたダヴィーと鳩たちの「世界」をめぐる物語(個人の印象です)。鳩の羽ばたき、見えなくてもそこに存在する昼間の星、多層的な世界とさまざまな美しいきらめきを著者の言葉と絵から受け取りつつ。最後には、かつて人間が戦いのために利用した彼等の魂にどうか安息がもたらされていますようにという祈りと共に、ダヴィーが全ての鳩の信書管に託した簡素にして重い言葉を受け取りたい。
……という真面目な思いを抱くと同時に、ダヴィーとマティエスコの関係性に湧き上がる感情に悶えますね!
約200ページ。お値段は大判の紙本に合わせてなので仕方ない。
文学のような絵画のような
2019年12月3日
先生の作品が好きで、紙でも持っていますが電子でも…。価格は高いですが、映画を観たあとのような充足感が得られます。
いいね
0件
ただ、読んでほしい
2018年8月21日
タイトルの通り。1400円は高いけど、これは是非、読んでほしいです。電子コミックもいいですが、この作品は書籍も欲しくなりました…
いいね
0件
彼らに目的は無い。ただ辿り着くことだけ
2023年9月7日
近所に鳩舎があって、子供の頃は有名な鳩使いが夜明けと夕方、笛で沢山の鳩を飼い慣らしていた。
その業界(!)では有名で、近所では糞で有名だった。そこの鳩たちを分けてもらう人、餌などのことを教わりに来る人、沢山の出入りがあったようだが、子供心には鳩は群れで存在しいつも大空を半径の大きな円を描いて飛ぶ巨大な塊なのであり、一羽一羽の小さき存在を具に想像することはしなかった。
ここに鳩が個々に名前が付けられて人の姿を借り、戦時下のそのdestinyを見せつけられると、鳩の生き方に注目した作者の感性に圧倒されてしまう。その、驚異的に細かい描写力が、画面一杯に埋め尽くされて勢いよくもがくように迫ってきていて、帰る、という事に拘る恐ろしさや、彼ら鳩達には抗えなかった彼らの生き方、それを利用した狡猾さを、ファンタジックな視点よりももっと危険な冷静さを、思う。鳩山先生の鳥モチーフは初めてではないが、その、「伝令の天使」の身体の空中前後回転や夥しい仲間との集団飛行を人間の絵に置き換えた事は、ヒトの一生のようなものを見つめる作用が働いて、一体誰がヒトで、誰がハトか、境界を無くして見入った。
正直、夢とかがない感じが残って、すごかったな、で終始してしまう。
それもまた、私にはイッツノットマイカップオブティーのピジョン版として、裏返しの皮肉なのではないのかと感じた。(学生時代に探鳥会をやってた人間とは思えない発言になるが。。。)

鬼才にきっと間違いない。
必見であると思う。
その価格を払うことに躊躇無い限り。
レビューをシェアしよう!
作家名: 鳩山郁子
出版社: 太田出版