このレビューはネタバレを含みます▼
前半の『宵待草』は4月、中学3年生の宇田川聖が私立中学についていけなくて塾に行かされているところから始まります。それでも成績は上がらず、真面目な聖ですが、ついに塾をサボってしまいます。塾に近い繁華街にある小さな公園に置かれた鉢植えのクロッカスを見つけた聖は、それを置いたカイネと知り合います。近くのスナックで働くカイネは端正な容貌で草花の名前に詳しく、聖は5つ年上のカイネのさりげない優しさに惹かれてゆくのでした。思うように上がらない成績と、成績以外聖に関心の無い両親とで孤独を囲っていた聖は、カイネの存在で成績を上げ、カイネの為に自分から動くようになります。謎めいカイネを助けたい、カイネの力になりたいのに、中学3年生という中途半端な年齢の無力さに聖は足掻き苦しみます。そしてそれが恋だと思い知り、その想いは次第に熱を孕んでクライマックスへと昂まってゆきます。そこからカイネが姿を消した後の静けさが、ラストのエモさを効果的に演出します。『二人静』は10年後の二人のお話になります。いずれもひたすらカイネだけを想い続ける聖の変わらぬ一途さと心の成長が淡々と描かれます。