アドリアン・イングリッシュ
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アドリアン・イングリッシュ

ジョシュ・ラニヨン/冬斗亜紀/草間さかえ

沢山傷つき失いながら進み続ける姿に感動

ネタバレ
2023年9月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ 長くなるので最初にザッとまとめますと、ミステリーとしては極上です。犯行動機・人間関係・それぞれの思惑・など、絡まった糸を丁寧に解くように進みます。明確に1巻1事件というのも分かりやすくて読者に優しいと思います。
ただ、BLとしてはかなりカルチャーギャップを感じました。単純に衣食住あらゆる面で何気なく登場する固有名詞や行動、会話に至るまで馴染みがなくて、私なんかは半分も理解できているか怪しいです。割と身近な海外のはずのアメリカ、それでも分からないアメリカンジョークもありました。
ほとんどの人に翻訳本独特の読み辛さは確実にあると思います。それでもマイナス面をカバーして余りある面白さ・奥深さがあるので、是非読んでもらいたいです。
2巻までは総評したような事を感じながら気楽に読んでいたし、明るい展望も持っていましたが、3巻から一気に翳りを見せ本格的なBLを見せつけられた感じです。アドリアンの立ち位置が、いつから?どこから?か分からないまま不本意極まりないものになったのか、どうしてこんな事になったのか切なくて苦しくて辛くなりました。
結局、信じられない展開のまま3巻は終了。先が気になり4巻に突入するも、早くも人物紹介のページで暗い気持ちに追い討ちをかけるような説明に愕然として、読む前からアドリアンの気持ちを思うと心が軋みました。
4巻までで比喩でも何でもなく何度も死の淵に立ったアドリアン。健康な人なら考えもしない人生の結末、「人生の締め切り」は、本当は誰にでもあるし、それがいつかも分からないのに、常に身近に感じる恐怖・不安はどれ程だったろうと思います。命をかけたやり取りの中、傷つけ傷つけられながら真実の愛を探す二人(特にアドリアン)に感動しました。
全体的に主人公達の年齢が高いので、可愛らしいファンタジーBLではなく、色んな意味で大人のストーリーでした。辛く苦しい事ばかりなのに不思議と涙は出ません。諦念を含んだ暗く重い心の傷は、涙で洗い流せるものではなく、深く刻み込まれ、残り続けるものなのかもしれないと思いました。そんな傷を幾つも抱えながら前を向いて進み続ける二人を見れて良かったです。
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