ゴンドワナの眠り
」のレビュー

ゴンドワナの眠り

青井秋

化石の神秘さと虚空を泳ぐ魚の幻影の美しさ

ネタバレ
2023年12月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 校外学習で訪れた博物館の一室で、高校生の笠間直樹の前に小さな標本から大きな魚の幻影かぬらりと泳ぎ出てきます。同じクラスの高木基にもその魚は見えるのですが、他の人達には見えません。直樹の後をついてくる魚に、昔から色々見えるという高木が心配そうに一緒にいてくれます。ゆらゆらと直樹の周囲を離れない魚の姿に、直樹は魚に何か願いがあるのなら叶えてやりたいと思うのでした。一人ぼっちで迷子みたいな幻の魚のために、亡き祖父が化石研究者だった基と共に直樹は博物館や水族館を巡ります。隅々まで丁寧に描き込まれた絵は、博物館の化石や鉱石、水族館の大小様々な魚影を光と影で彩ります。何よりも広い空間を自由に泳ぐ骨格の透けたピラルクの滑らかさと煌めく鱗が美しく、きょとんとした目も愛らしいです。そのピラルクのために一生懸命な直樹の優しさが基の心を惹きつけます。長い長い年月を経た化石に残る記憶の残滓に、幼い思い出と青く切ない今の想いとが重なります。そっと触れるだけのキスも尊いきれいなお話でした。
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