紙の舟で眠る【単行本版】
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紙の舟で眠る【単行本版】

八田てき

当時の日本映画を見終わった様…美しかった

ネタバレ
2023年12月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ 「遥か遠き家」の作者とは知らず😩「やくざの推しごと」もそうでしたが、レビューで知って驚きました。感謝です。

昭和24年の横浜、路面電車と米軍トラックの事故から始まる冒頭…
子供時代の主人公2人を除いて全員死亡の事故は、終戦間もない所から世間のやり切れなさはどれ程のものだったのだろうかと思いました。

そんな社会の空気と泥酔する主人公。彼が身を隠しながら通った場所はたぶんドブ板通り。米兵相手に始まった夜の町と死神の夢を掛ける描写は上手いなと…P.15 グラスとあれ。そうでもしないと日常を過ごせない精神状態の憬から、純文学作家が重なり。そんな退廃的な耽美さにクラクラでした。

燿一。可哀想で…。彼が育った女郎屋は、夜になれば和かなお姉さん達も昼間に見せる顔は違ったのかなと。P.145女将、かあさんの言葉から…男性相手の職業をする女性は、彼らの裏の裏の顔を身をもって知っている。男性嫌悪の女性も多かったのかなと(女将さん、そうだったんじゃないかな)
燿一が捨てられなかったのは、あの事故の際に支払われた(かもしれない)お金を彼女が受け取ったのかも知れず…。色んな意味であの様な場が燿一の故郷なんだなと。また彼が女の子だったら、また違ったのかもしれないのかなと。

個人的に感じた萌え…それは共有する時間の流れでした。
時間の流れは曖昧で、重力や速度が変わると変わる。あの事故が起こった車両内の衝撃、その重力と速さの中で生き残った2人は、その時から互いだけの時間という流れの韻を共有して生きていたのかなと…そんな風に思ったら、燿一にとって憬が紡いだ言葉、韻に魅かれたのは必然で…憬の死神の変化の始まりも事故から始まったのか、逆に共有するという未来があったから事故になった…という解釈もめちゃくちゃ萌えで。そんな風に未来今過去を同点と解釈できる、冒頭の耽美さは良かった。
韻そのものなのかなと思った2人の心拍数はどんなだろうと(萌え)。あぁ…だから新しい生を2人は育めたのかなと。あの事故が無く出会っていたら、憬の母の様に2人もと、そんな風にも思いました。

日本語は美しかったなと、久しぶりに感じた作品でした。良かったです✨
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