子爵ヴァルモン
」のレビュー

子爵ヴァルモン

さいとうちほ

残酷な「ゲーム」の先に待つ運命は…

ネタバレ
2024年2月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ フランス文学の傑作の一つ「危険な関係」を、ほぼ完全に漫画化してあります。かなりのボリュームの原作をたった2冊にまとめたのにまず驚きました。そして各登場人物の描写の正確さと鮮やかさにも驚きました。登場人物たちのちょっとした仕草や表情の変化で、それぞれの心の動きが手に取るように分かります。ヴァルモンへ傾く自分の気持ちを必死に隠そうとして伏せた法院長夫人の長いまつ毛や、セシルが流産した経験があることを告げられてショックを受けるダンスニーを見るメルトイユ公爵夫人のほくそ笑む顔など、漫画ならではの描写が実に見事です。さすがはベテランのさいとう先生。終盤、命を落としたヴァルモンと法院長夫人の魂がほほえみながら見つめ合う場面が、この作品の中でもっとも美しい場面ではないかと私は思います。2人の恋は、キリスト教の教義では罪ですから、死後2人の魂は地獄に堕ちるのでしょうが、2人にとっては共にいられるなら地獄の炎も辛くはないのかもしれません。この物語は、セシルが修道院を出てから約半年の間のことですが、社交界への不安と憧れに胸をときめかせていたセシルに、たった半年で「もう社交界にはなんの未練もありませんから」と言わせた経緯を思うと、なんともやり切れない気持ちになります。原作の小説も実に読み応えがあるので、興味がある方は合わせて読むのをお薦めします。相互補完でより理解が深まりますよ。
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