ルックバック
」のレビュー

ルックバック

藤本タツキ

描き続ける姿

2024年5月2日
私はチェンソーマンを読んでいない。「ルックバック」に対するレビューアーの方の絶賛を読んで気になってからもう随分になるが、この度やっと、1巻完結である本作を購入した。
ルックとバックの間に別の語は入っていないので、振り返るの意。しかし作品内で主人公は、「振り返らず」描き続ける姿を、子ども時代、デビュー後の初期、連載作品が続々単行本化された時期、どんなときも季節が移っていっても只管何度も見せてくる。時の経過による変化を僅かに巧みに絵に忍ばせながら、ずっと描き続けるその姿は後ろ姿の連続。振り返るの意味しか無いタイトルながら、振り返らず描く姿は背中(バック)で語らせる絵の連続に、ルックat her バック、そして、herがtheirにも重なる意図を私は勝手に思う。
漫画だから可能な表現に、言葉に頼らない絵だけに負わせる表現に、彼女(主人公)の想像力による改変エピソード的ストーリーの挿入の表現に、作家の漫画家魂が熱く伝わってくる。
作品は女の子たちに漫画を作らせていたが、「藤本タツキ」先生のお名前をふたつに分けた、作者ご自身の投影が随所にあるのではないか、と妄想した。ただ前述の通り、私には初めての先生の作品、彼女達に藤本先生の何かを見出そうとするなど、浅慮にして失礼かもしれない。
創り出すということの向こうにある、机に向かう延々たる俯瞰的景色が、絵を描く事への執念にも似た継続の意思の描写につながり、初めから描ける人は居ない、少しでも多く描くことで前に(つまり振り返らずに=背中しか見せてないということ)進んでいる、と見せつけてきて圧倒された。

繰り返すが、「バック」の前には、誰の、という語なども入ってないのに、背中の意味をやはりどうしても私は隠し持っている気がしてしまう。表題作1本のみ収録で、何度も見せた背中。それだけ藤本先生は背中に語らせてきたかった、との意図を思ってしまう。背中を見てよ、かと。
制作に邁進する主人公は熱?夢中?に見えて、読んでるこちらはそれによりむしろ冷静になり、漫画家像というのはそういうもの、といったところを、其処から感覚的につかまされた気分になった。
いいねしたユーザ6人
レビューをシェアしよう!