月虹
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月虹

水樹和佳子

人類の脳が異常に巨大化したのは殺戮行為で

2024年6月7日
人類が核兵器他を戦争に何十万発と用いて、完膚なきまでに破滅的なところに追いやらんとする近未来的地球環境のその終末に対比させ、地球と似た環境を遙か昔に持ちながら別の事情により故郷の小惑星を捨てざるを得なかった異星人が、地球の命運を握る能力を持っているストーリー。水樹先生の描く終末観は人類滅亡の少し手前で、人々のストップの効かないさまや、科学の発達も好戦的な人類の暴走を抑えられない状況を示す。その異星人の目には、地球上の人類とは攻撃性が第一性格の危険な種族、と。
現代でも世界各地で起こる攻撃の報道、爆撃を受けて破壊された建物など見れば、否定は出来ないーー。
主人公と、プラズマとあだ名がつけられた超人の彼、また、遠い過去に故郷の星から早々に切れてしまってた形の男の子。3人の気づきの時(覚醒の、というべきか、プラズマとの接触によって思い出す)は大きく異なる。彼等は故郷の星を脱出せざるを得なかったとき、長い年月を掛けて、地球人自ら星をダメにする寸前の好機を狙いすましていた。
しかし元は異星人といえど、その故郷への想いの継承とは別に、潜伏の長い年月の間に地球での人間関係もあったりして簡単に彼等の星にしてしまえなくなり…。
非常に遠巻きの反戦メッセージがありながら、そこまで突き進んでいくことを止められない(敵を攻撃するスイッチ(ボタン)はもはや地球規模の破壊力なのに)人類が、外の惑星の人たち(ヒューマノイド型なので)に命運を握られる。ぶ~け誌掲載だが相当ハード展開。1981年4-9月号。前後編で、表題作は318(187+131)頁。後編にはグッとくだけた「苦麗児プロポーズ」40頁(りぼんデラックス誌1978年4月(春)号)と、水樹先生の叔父様という詩人の二編の詩とそれぞれのイラストとを各2頁同時収録。
クレアボワイヤンスの活字がクレアボワイカンスとなってしまっていた。またそもそも古い書の電書化にありがちな活字に付されたルビの潰れが多くて、そこは読み辛かった。魂(アニマ)、予知能力者(プレコグニショナー)などそう読んで正しかったのか分からない。
作品発表当時のSF漫画(「月虹ーセレスの還元ー」少女漫画王道の掲載誌であることも)の世界の広がりに驚くが、それでも、水樹先生は異色のファンタジーを紡いでくださっていたのだろうという気もする。
*「セレス」は星の名前。
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