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一ノ瀬ゆま

闇が深いからこそ神々しいハッピーエンド

ネタバレ
2024年6月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ この作者さまの作品は他も素晴らしくて大好きです。
物語の色んな箇所に様々な要素が散りばめられていて、一度だけでは消化できないお話で、何度も読む度に発見があります。作者さま、本当にすごいです。ケイ君の精神の解離構造を2つの人格を登場させて描いているところ、お兄さんの精神的な領域で弟を殺し、自身を解放するところ、等、心理学を学んだ方なら、成る程…そういうことか、ときっと納得できると思いますし、作者さまがかなり専門知識に基づいて描いていらっしゃるなあと感じました。だからこそ、人の心や社会の闇をここまできっちり描くことができていて、素晴らしいのひとことです!!
実際、幼児期から○待を受け、愛される感覚を養えずに成人した人の精神の回復は、ケイようにすんなりとは行かないのが現実だと思います。だからこそ、ただ愛に飢えた人に愛を与えるだけでは解決しない部分がしっかり描かれてあり、リアルでしたし、綺麗事の愛の話になってなくて良かったです。心のキズやトラウマは、なかなか大変な問題です。闇の中で生きてきたケイが、色んなものを清算して、無事にゼロ地点に立てるまでハラハラしましたが、ユタカの元に無事に帰り、今度は対極の世界を生き始める姿が美しく眩しかったです。闇が深かった分、きっとケイは強い光にも耐えうるだろうと。
子供の頃に絶望したケイが、父と兄を殺さないために自分を殺すわけですが、この辺り、宗教団体のリーダーとは真逆だなあと。生き延びるために、相手を殺すのか己を殺すのか…傷付かないために己を殺すことは程度の差こそあれ私達も皆、自覚があるにしろないにしろ経験あることで、この場面はとても胸が痛みましたね。。ケイは、月並みな言葉ですが、優しい魂だったんですね、きっと。ユタカと出会い、慈しみ大切にされる愛を知れて良かったです本当に。なかなか命がけの愛の話でしたが、相手を丸ごと愛そうとするのは、喜びや愛しさと同様に痛みや苦しみをも引き受ける覚悟であり、自分の存在が覆るような経験でもあり、そんな愛の二面性も描かれていて、重厚感のある作品に仕上げられており、作者さまの力量に脱帽です。また時々繰り返し読みたい作品です!
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