86―エイティシックス―
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86―エイティシックス―

安里アサト(株式会社KADOKAWA/電撃文庫刊)/吉原基貴/しらび/I-IV

背景まで感情を持っている様な…感動でした

ネタバレ
2024年9月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ たまたま書店に寄ってふと手にした本が壮大な物語だった様に、この作品は私にとってそうでした。時々元気を貰おうと、ギレンの演説を聞いてそのまま澤野氏の曲を聴く事があるのですが、綺麗だなと思った曲が86のアニメの曲だと分かり、このコミカライズを見つけて一巻を試し読み。18ページの扉絵のコマに感動で最高に上手いなと。これは読まないと…と思いました。
物語は凄く重くて。現実社会のあらゆる問題を詰め込んだ様なお話です。

自由 平等 博愛主義の共和国。その共和国と周辺国に隣国の帝国が軍事侵攻。帝国の無人機の軍事力の高さに共和国は負けはじめ、憲法を改正。共和国の移民者層(有色人種)の人権を剥奪。85まである行政区の外側の強制収容所(86)に彼らを移住させ、帝国機と戦わせて85区を守らせているのだけれど、人権を剥奪された人間が乗っている共和国兵士の部隊は無人機だと、豚だといっている社会の物語。

ちょっとある意味読みながらゾッとしました。戦争はまだ始まっていないけど、現実もどこかその状況になりつつある様な感じがして。作中の紛い物の牛乳から作られたケーキ、長く使われているコーヒー豆等から、共和国が憲法を改正する迄にインフレが起き、市民の暴動もそうだったのかなと。確かに今国によってはインフレ率は20%以上で、市民が移民を見る目は厳しくなってきている。主人公 レーナと母親の食事のシーンがあるのですが、ここに人種差別とは何かが凝縮されているなと感じたりしました。

86を豚と言う市民が差別主義者じゃないんですよね。彼らはインフレによる生活の困窮者で、彼女の母の様な、貴族やブルジョワがそうなのだと。最初に移民を認めるのは彼らで、最後に憲法を改正したのも彼ら。政治を動かしているのは市民ではなく彼らになっている物語。倉庫の天井や骨組みの描写がめちゃくちゃ切なく描写されていて、死ぬまで戦わさると知っている86の兵士達の気持ちが背景からも感じます。

吉原先生の描く世界観が凄すぎました。また連載が再開される事を願って…
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