このレビューはネタバレを含みます▼
何で今まで読んでいなかったのか不思議な程です。こんなに素晴らしい作品があったとは。
佳澄の和服姿がとても美しく描かれていて一瞬時代物?と思ったら現代のお話でした。
父親から子へ。人を殺める事を強いられての初仕事で自分のミスで大切な兄を亡くしてしまうという無念の出来事の中、千夏が出会った佳澄。二人が出逢ったのは運命でした。
佳澄の微笑みも涙を浮かべる表情も柔らかくて繊細でとても美しくて心も同じように美しくてとても惹かれました。
千夏は兄の死の無念を抱えながらも父親に抗えず刹那を生きていて哀しい。
対する佳澄は老舗旅館の長男に生まれながらも眼の障害のため今は離れの小さな部屋に暮らす。境遇は違えど辛い日々を過ごしていた二人。
あの時の自分を覚えているのでは。千夏は猜疑心を抱えながらも心を通わせるようになり、千夏が佳澄を水族館に連れて行った場面はとても素敵でした。
とても楽しそうな佳澄を見る程に逆に二人の行末が心配でした。
佳澄が父親に人質にされてしまった時は、え…バッドエンド?メリバ?と狼狽え身構えたけれど、思っていたよりあっさりと父親の思惑が絶たれてほっとしたと同時に千夏からの拒絶に驚愕する父親が憐れでもありました。
実は後程の海辺での幸せな場面でも父親が追いかけて来ているのではと心配していました。 メリバもバッドエンドも色々と読んでいるのでどこかでヒヤヒヤとしている自分がいたのですが余計な心配でした。
二人が愛し合うシーンもとても美しく自然に描かれていて素敵過ぎました。
絵が美しいのはもちろんですが、ページごとの構成と時に詩的な繊細な表現がとても美しくて目を見張りました。
言葉の表現も作品に合っていて素晴らしく、すっと心に入って来て静かに沁み入る感覚がとても好きです。
佳澄が千夏に読み聞かせて貰った水族館育ちのイルカと海から来たウミヘビの物語が二人になぞらえていたり、オシロイバナの件もとても素敵でした。
幸せな二人を沢山見る事が出来てこちらも幸せな気持になれました。自分はネタバレなしで読むタイプなので不穏な始りからはとてもこんなに素敵な幸せなシーンが見られるとは思ってもいませんでした。
また、千夏の殺し屋稼業の説明は1巻でこれだけのストーリーにするには象徴的に簡潔に暗部を描く手法が合っていると感じました。
素晴らしい作品と先生に出逢えました。