汝、星のごとく
」のレビュー

汝、星のごとく

凪良ゆう

惹き込まれる、けれど苦しすぎる

ネタバレ
2024年10月4日
このレビューはネタバレを含みます▼ 殺戮ファンタジーよりずっとリアルで残酷だ。肉体が傷つくことよりも、心を抉る誰かの言葉、悪意のない感情による殴り合い、目に見えないトラウマのほうが私は怖い。本書は乗り越えきれない未消化のそれらをまざまざと思い出させてくる。何人か書かれていますが『Nのために』を強く思い出させる作品です。
文章は読みやすく惹き込まれ、面白い。SNSで「よかった」という投稿文と表紙・タイトルの美しさだけで、私は初めて電子書籍で内容を知らない小説を買った。結論からいえば買ってよかった。二日間で読了した。しかし美しく燃える愛で満たされた青春の恋物語は一瞬で、その後の二人を引き裂く展開の数々はあまりにも鬱的だ。それが現代日本のリアルだから本当に恐ろしく心がかき乱された。
彼が過酷な展開に翻弄されるそのたびに「ああ、つらい!まじかよ、もうやめてくれ。どうか幸せになってくれ。ハッピーエンドなんだろうな?」と読者の私は心が絞られ、彼の死の描写はあまりにつらくて中断し、しばらく放心状態だった。飼っている愛鳥がいなかったら私は本当に今ごろ不安定に乱れていたかもしれない。彼の生き様や死んだ年齢は、私にとって他人事ではなく鬼気迫るものがあるからだ。当事者の二人は幸せな結末だったのかもしれないが、読み手である私個人には苦しみと息苦しさしか残らなかった。
(なお、二人が再会したシーンの感情の希薄さだけは移入できなかった。あれほど一方的な別れ方をしていたら、もっとお互いに湧き上がるあれこれがあるのでは…。冷静で淡々としすぎていて、そのシーンだけは少し拍子抜けしてしまい、没入感がいったん抜けてしまった。)
それでも、美しくやさしい文章で、余韻があり、読み応えがある。また何度も読み返してしまうかもしれない。続編も読む。そしてこの著者の他の作品もぜひ読みたいと思う。
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