このレビューはネタバレを含みます▼
時は戦前。ちょんまげ封建制度が解体され、新政府のもと近代国家を目指そうという激動の時代。
情報化社会の今では考えられない差別や暴力が蔓延っていた世と想定して…
亮二とエドはよく巡り合うことができたよね。
性の捌け口にされ生きるか死ぬかの青年時代を生き延びた亮二と、異国で記憶喪失となりわけもわからず彷徨っていたエドの不幸二大巨頭が主役を張っている作品なだけに、読む前はどんな残酷な展開が待ち受けているのか戦々恐々としていましたが…不幸は青年時代がMAXだし国を挙げての電気事業も軌道に乗り、それ以上泥沼化しなくてよかったです。
甘エロのハピエンです。
作者さまが手綱を緩めなかったらいくらでも地獄が繰り広げられたであろうストーリーの中で、唯一パトロン中原だけは主役の二人の逆を辿ったといえよう。けれどもそこに同情の余地はなく、妻にも亮二にも政府にもいい顔をした結果誰も幸せにできなかっただけのことなんだとわたしは捉えている(権力勾配のある中原に囲われていた頃とエドと一緒にいる亮二、どちらが幸せそうに見えますか?)
神話や歴史が示すように成功者の陰にはたいてい強烈な個性を持つ存在が控えていて、その方程式に当てはめるなら中原の妻もその情念によって彼を支えていたところもあるはずなので、ケアをおろそかにしたらそりゃそうなるに決まってるじゃん……
中原はエドに「亮二がお前を拾ったのも私の真似事だ」と言い放ったけれど、わたしはそうは思わない。もし同じなら、亮二は中原とも縁を切らずエドと関係を続けていただろうから。
全てを手に入れようとした中原。
エドだけを見つめることにした亮二。
単純な話、ここが運命の分岐点だったんじゃないだろうか。
タイトルにある「タングステン」は、白熱電球に欠かせないフィラメントの原料なんだとか。
高温でも溶けにくい性質を持っているところが、二人の熱愛ぶりを想起させる。
長々と私見を綴ってしまいましたが、素晴らしい作品や作者さまを次々と見つけてしまうもので、レビューを書く手が止まりません。