蛍火艶夜
」のレビュー

蛍火艶夜

amase

2回読まずにいられなかった

ネタバレ
2024年11月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読了後、読み返さずにはいられなかった。全ての表情や言葉に意味があって、その全てにいちいち思いを巡らせずにはいられなくて、一回目の三倍くらい読むのに時間がかかった。お話の構成力がとんでもなくて人生でそう何度も味わえないであろうカタルシス。八木さんはすごく弱くて情けない人で、自分でもそれを分かっていて、でも立場や自尊心、当時の男性の在り方みたいなものに囚われていたから強く振る舞うしかなくて。志津摩くんに心が救われていたことに気付いたのは、きっと特攻出立の直前だったんだろうな。それゆえに志津摩くんを殴りつける場面はとてもリアルだった。あそこがあるからこそ、22年後の八木さんの未だに残る志津摩くんへの想いが強烈な説得力を持つ。病気だと言われ続けてきた志津摩くんはきっと八木さんよりよっぽどしぬ覚悟があっただろうし、彼の全ての言動は叶うことなく散っていくはずだった自分の夢を叶えてくれた八木さんへの愛ゆえのものばかりでその健気さがたまらない。きっとまた辛い思いをしているだろう八木さんを思ってひとり寒空の下で待ったり(来ないのに…!)、残されたあとの周りからの好奇の目などまるで気にせず次の特攻を待ち望む姿、淀野さんに抱かれながら八木さん会いたいと呟く表情、全てが愛おしいし、だからこそ死後22年経っても八木さんと淀野さんを狂わせているという…そして読了後こんな長文レビューを書いている私も魅了されたひとりであるという…。最後の八木さんと志津摩くんの笑顔に関しては語彙力の限界を感じるので何も言葉が出てこない。全身の力が抜けて膝から崩れ落ちるかと思った。総合的に文句なしの星5というかそうそう出逢えるタイプのお話ではないのは確か。絶対に下巻も買う。
書き下ろしでの正雄を見たときの淀野さんの表情、ずっと「やぎの顔が見てみたい」と探し続けてきた淀野さんにとっては目の前の年老いた八木さんよりよほど「志津摩くんが愛したやぎ」だったのかなと。探さなければよかったという後悔がまたリアル。そして淀野さんが一話で写真を渡したご遺族は志津摩くんの姉なんだろうけど姉の娘が志津摩くんに似てると聞いた途端に引くほど食いついてる八木さんもまた「あの頃の志津摩にもう一度会いたい」なのでしょうし正雄は淀野さんに接触するだろうしまだまだ八木さんも淀野さんも志津摩くんに魅了され続ける人生なんだろうなと思った。
いいねしたユーザ8人
レビューをシェアしよう!