もういいかい、まだだよ【特別版】(イラスト付き)
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もういいかい、まだだよ【特別版】(イラスト付き)

栗城偲/小椋ムク

ふわふわと長い時を生きるろくろっ首の恋人

ネタバレ
2024年11月23日
このレビューはネタバレを含みます▼ 『てのなるほうへ』のスピンオフ。前回主役の草枕の友人•ろくろっ首の春宵のお話は、前回草枕視点で描かれていた出来事が春宵視点になっているシーンが幾つかあり、シリーズをより立体的に楽しめるようになっています。イケメンで物怖じしない春宵は天然たらしで、人とも妖とも上手に付き合っています。その春宵が江戸の町で樋野弥一郎と出逢います。驚かそうと首だけで往来に転がっていた春宵を拾い上げた弥一郎は「おや綺麗な顔をしてるじゃないか」なんて言います。労咳で死期の迫る弥一郎には恐れるものは無く、人懐っこい春宵と馬が合って楽しい時を過ごします。いよいよ弥一郎が重篤となった時、春宵は妖の元締•狐の御簾裏に弥一郎の命乞いをします。御簾裏の力で弥一郎は不老の妖となり健康を取り戻しますが、次第に人の世で疎んじられるようになり最後は春宵に恨みを遺して自死したのでした。時代が流れて平成の世となり、春宵は助手として勤める大学で弥一郎そっくりの樋野学と出逢います。春宵のふんわりとした悪気のないキャラが永遠に近い時を生きるのにうってつけである一方、弥一郎の命乞いをしてしまう情の脆さが長い時間自身を苦しめます。『てのなるほうへ』では見えない巽と見られたくない草枕のペアでしたが、こちらはゲイの樋野と妖の春宵というやはり孤独を支え合うペアになっています。春宵を妖と知って受け入れる安藤教授親子のような大らかな人達が日本の妖怪を育ててきたのかと納得してしまいました。令和の世でも日本のどこかで妖たちが楽しく宴会していると嬉しいです。
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