2世と器
」のレビュー

2世と器

戸ヶ谷新

これだからBL漁りはやめられない

ネタバレ
2024年11月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ また素晴らしい作者さまに出会ってしまった…
性的マイノリティと宗教問題をクロスオーバーさせた意欲作。
BLジャンルで間違いはないのですが、BLの皮を被った「不同意」への問題提起、行動の有用性とコミュニケーションの必要性を図解する参考書のような作品ともいえる。
もし恋愛感情を抱かないアロマンティックな春一(はるひと、ハルイチ)が他者に性的欲求を抱かないアセクシャルだったら、こんなふうに永真(とうま)と繋がることはできなかっただろう。
恋と宗教。特別な誰かにのめり込み現実世界から浮き足立ちやすいという点は似通っている。恋も燃え上がり過ぎれば妬け焦げるから、むしろ一般的に恋愛と呼ばれている束縛スレスレの関係性より春一の永真に抱く感情で結ばれた方がよっぽど長続きしそうだしリスペクトがあって、まったく問題めいたものを感じなかった(恋愛感情を持っている永真がどこまで理解を深められるかにかかっているのだろうけれど)。
自我が育つ前に摘み取られた永真はともかくとして、肉体的な折檻はなかったにしろ春一みたいにひらけたタイプの人間が特定思想や宗教に押し込められるのは、ものすごい苦痛だったろうな…
「大人」ってなんなんだろう。宗教に救いを求めた母親も問題をもみ消すような警察も教祖に心酔した教師も「大人」なら、春一や永真の助けになろうと動いてくれた叔父なども「大人」。もし春一がグレていたら。もし永真が闇堕ちしていたら。春一と永真が出会えなかったら。圧に負けて踏み出せなかったら。頼りになる大人や「知ろう」と努めてくれる友人がいなかったら…たらたら考えただけで涙が出る。
(金や信仰の話はおいといて)もう無理強いはやめましょうという時流の助けがなければ教祖・永真も助かる見込みはなかっただろうから、令和の今だからこそ、今じゃなきゃ描けない漫画だったように思います。
控えめな性描写あり。エロよりも心の繋がりを大切にする繊細な二人。
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