このレビューはネタバレを含みます▼
約240ページ、表題作(前後編)100ページ超+長めの読切2作入り作品集。
サイエンスなファンタジーをまとって、あくまで表面上は軽やかに、心の奥底を笑顔で抉ってくるんですよね〜。素晴らしい。あとこれ、全作品に天才が出てきますね。天才は良いものです。
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・表題作 姉と弟の恋模様に、マッドなサイエンスをプラス。姉の激しい感情がザクザク刺さります。自分が自分である限り叶わない想い、罪の意識、自分を壊すことも厭わないほどのその激情が切ない。そして最後のあのセリフは、「許可」の意味ではなく、彼女の真の「願望」だと思う。星5つ。
・『パンドラにて』土星の衛星の女学院が舞台。優秀な「兄」に対して反抗的な主人公、そこに寄り添う無口で忠実な少女……ずっと無言だった彼女が作中ではじめて発した言葉にグッときます。物語中ではセリフと回想シーン(顔は見えない)でしか出てこない「兄」の、支配的な狂気がおそろしく、「愛」という言葉の空虚さがすごくてもう。そういうの好き。ダンスのシーンが美しいです。星5つ。
・『月の葬式』息が詰まって北に逃げてきた高校生と、妙に明るく人気な男の、擬似兄弟暮らし。月の文明、謎の病気、ラストのまとめ方、いささか設定の盛り方の分量が自分好みではありません。が、「兄」が軽い口調で語った、ひとりの心細さの描写が良かったです。星4つ。