このレビューはネタバレを含みます▼
『プリフェクトの箱庭』スピンオフ。本編でも活躍した脇キャラ二人の話でしたが、良い意味で全くキャラが被っていない上に魅力的なので、学校などの設定を引き継ぎつつ新しい感覚で楽しめました。本編の二人には、純粋でどこか冷たさのある高潔さを感じるとしたら、こちらの二人は情熱的でパワフルな印象です。
本編では『月』が重要な位置を占めていて、その光は神秘的だけれども幾らか冷たさを感じる面もある気がします。対してこちらは『熾火』、火なので情熱的なイメージがあり、上手いことタイトルや人に絡めて巧みに読者の感情を揺さぶってくるところがあったと思います。
特に『熾火』…これには、恐ろしい程の言葉選びのセンスを感じました。『熾火』には、燃えさし・燻り続けるなどのイメージがあって、炎が出ないことからも「終わり」を連想させますが、見た目に反して火力は600度くらいあって、炎の状態より100〜200度低くなっただけで、かなり高温なんです。主人公の二人(特に花菱?)にピッタリ過ぎて唸りたくなりました。
心の中に燻る正解とも不正解とも言えない思い(月人に対する感情)や紫苑との爛れた関係、新しく始まろうとする恋の予感…色々なシチュエーションにこの『熾火』が当てはまるような気がして、花菱から目が離せませんでした。目を離せば消えてしまいそうな雰囲気までピッタリな気がします。
そんな危うい花菱に寄り添い、後輩なのに力強く支える久世は、公明正大で揺るがない逞しさがあってカッコ良かったです。花菱のなんとも言えない翳りと、穏やかそうでいて情熱的な久世、二人の明暗・寒暖のコントラストが素晴らしく魅力的な作品です。