やさしいひと【コミックス版】
」のレビュー

やさしいひと【コミックス版】

うづきあお

自身にとっての優しい人

ネタバレ
2025年1月2日
このレビューはネタバレを含みます▼ すごく面白かったです。各人の思いや感情の流れ、それぞれに訪れる因果通りの結末も、物語としてすごくよくできていました。主要人物が三人出てくるのですが、どの人物もキャラクター描写がしっかりしていて、語られずともこの人物はこういうタイプだからこの選択をしたんだな、この選択をしなかったんだな、というのが察せるので、説得力があります。唯一納得いかないのがリクさんがぽんぽん出す金銭の出処ですね。元々家が太いのかヤバい仕事をしているのかは分かりませんが、自分も宝くじ当ててこれになりて〜って思いながら読みました。嘘です、そんなこと考える余裕のある内容ではありませんでした。
つくづく、人間の語る「優しさ」という言葉は都合がいいな、と考えざるを得ません。完全に主観に依存した言葉です。でも、人には感情があるし、自分以外の人間にはなれないから、自分に向けられた優しさはその内実がどうであれ、相手からの愛だと感じられるんだよなと思います。イチさんの視点から見た、母親さんとリクさんがその対比だと思います。母親さんは作中以外の言動は分かりませんが、作中で表現されたイチさんへの態度は、明らかに自己愛でしかなかった。自身の世間体などの保身のため、に見える言動がイチさん視点では多かったです。リクさんは、裏でやっていることや腹の中で考えていることは、イチさんには分からない。悟られることすらなく、だからイチさんにとってリクさんは最初から最後まで優しい人だった。リクさんが手を回していたことを暴露されてさえ、揺らぐことのない信頼や依存を、第三者がどうこうできるはずもない。だってその人が優しいというなら、その人にとってはその優しさは本物なんだ…。
つらつら書きましたが、素晴らしい作品でした。現代社会では優しい人というのは都合の良い人扱いをされたり、八方美人の代名詞として使われたり、散々ですが、タイトルである「やさしいひと」という言葉をこんなに柔らかく使えるのは、純粋でそれこそ優しい心の持ち主であるイチさんが、真心でリクさんのことを思っていらっしゃるからなんじゃないかと思います。
いいねしたユーザ1人
レビューをシェアしよう!