蛍火艶夜
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蛍火艶夜

amase

戦後八十年…

2025年1月16日
本編が終了し、年が明けても、相変わらずこの作品のことを考えてしまう日々を送っています。いつまでも続く物語の余韻…。
今年は戦後八十年という節目の年でもあります。そんな中、BLに抵抗感を持たないより多くの方にこの作品をお薦めしたい気持ちが強くて。すでに単話版と特装版でレビュー済みな上、皆様の素敵なレビューと重複してしまうかもしれませんが、僭越ながらこちらにはネタバレなしの感想を書かせていただきます。
太平洋戦争末期の神風特別攻撃隊が題材ですので、賛否両論あることは重々承知です。しかし、これはもはや単なるBL作品と一線を画した、心に迫るヒューマンドラマだと思います。決してただ批判されるだけの作品ではない。それをどうか知って欲しいです。
当時は世間的に許されなかった男同士の愛と葛藤、死を目前にしての束の間の穏やかな日々、燃えるような命の輝き。特攻兵たちの壮絶な生き様が、躍動感ある圧倒的な筆致で描かれています。
祖父と大伯父がこの物語のキャラたちとドンピシャで同世代、従軍経験者です。大伯父の方は開戦前からの古参の飛行機乗りで、陸軍の爆撃部隊で分隊長を務めておりました。陸海の違いはあれど、写真で見る若い頃の姿はどうしても彼らと重なります。
当時の飛行機乗りといえば花形中の花形、飛行服を着ているだけで一般の方からは神様と呼ばれることすらあったそう。彼らはそれほどまでに畏敬と憧憬の念を抱かれる、別格の存在だったのだと聞きました。
“愛機が戦闘機でも爆撃機でも関係ない、征けと命じられれば従うのみ。飛行機こそが俺たちの棺桶だ”。特攻については、少なからず皆その覚悟は持っていたそうです。辛かろうと、公の場で弱音を吐くことは絶対に出来なかった。作中のキャラたちも同様だったはず。
そんな極限状態の中で溢れ出すそれぞれの本心、それぞれの相手への嘘偽りない想い。そして互いの前では体裁などかなぐり捨てた、こちらにまで熱が伝わるような全身全霊での交わり。
絵面も台詞も気取った表現で飾っておらず、限りなく生々しい。amase先生、批判等に負けずによくぞここまでリアルに描写して下さいました。
理性と本能、同性同士に芽生えた愛の狭間で戸惑い揺れる、国に命を捧げた男たち。興味を持たれた方、購入を迷われている方、是非とも読んでみて下さい!ずっと心の中に残り続け、一生忘れられなくなるような実に見事な作品です。
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