イルカの耳骨
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イルカの耳骨

一生懸命に好かれようとする可愛さと切なさ

ネタバレ
2025年2月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 大学生の浅見は、教室に忘れた傘を取りに戻って千晃と知り合います。浅見を誰か知らないままに傘が持ち去られないように見張ってくれていた千晃は、面倒だと食事も抜いてしまうような驚くほど無欲な青年でした。一方、幼い頃に母親が出て行ったのは自分が役に立たないからと刻まれてしまった浅見は極端に自己肯定感が低く、常に「役に立たなければ」という強迫観念に囚われています。バイト先の洋食屋の親子も母親がおらず、浅見は高校生の息子•宝の寂しさがわかるだけに必要以上に世話を焼いています。まだ小学生だった宝が、願いが叶うというイルカの耳骨を泣きながら探していた時から、浅見はずっと宝のためにイルカの耳骨を探し続けているのでした。浅見と千晃は身体の関係はあるものの、千晃と本当に付き合っているのか自信の無い浅見はいつも不安です。千晃もまた、他人のこと、特に宝のことばかり気にかける浅見の「役に立たなければ存在価値が無い」という呪縛を解きたいと考えているのでした。千晃、浅見、宝の関係が曖昧なまま話が進んでゆくのでちょっとわかりにくかったです。海の貝殻や魚の骨、キャンプ場の流れ星など願いを叶える様々なアイテムが登場します。冷蔵庫の中でシンと冷えているすべすべのウミウサギの貝殻みたいに静かなお話でした。
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